「うわ、すっごい雪。こりゃ家に帰りつくまで大変だぁ」

 一通り買い物を終えた後で、再び外に出た頃には、辺りは結構な雪景色。
 見たところ、車は動いてない。

「あ、やっぱり電車、凄い乱れてるね」

 人の溢れる駅を横目で見つつ、二人は通りに出た。

「転ぶなよ」

 踏み出した足は、甲までぼすりと雪に沈む。

「大丈夫。転んじゃったら、折角買って貰ったケーキが台無しになるもん」

 意気込む深成の手には、ケーキ屋さんの箱。
 真砂が買ってくれたものだ。

 お邪魔するから手土産なのだろうが、もしかすると、こういうものを持たせておけば、意地でも転ばないだろうという計算もあるのかもしれない。
 買い物の大きな袋は、真砂が持ってくれている。

「えへ。こんなに寒かったら、やっぱり一人よりも二人のほうがいいね」

 大事そうにケーキを抱えて、深成が真砂に笑いかける。

「わらわ、寒い時はうさちゃんとかくまさんとかを周りに置いておくんだ。そしたら寂しくないし」

「どんだけ寂しがりなんだ。ずっと一人なんだろ? 大体そんなもん周りにあったら、邪魔なだけじゃないか?」

「う~も~。わかってないなぁ。みんなできゅっと固まってると、あったかくなるんだもん」

「……鬱陶しいだけのような気がするが」

「課長は、ほんっとシンプル・イズ・ベストな暮らし方だよね」

「お前が異常なんだ」

 くだらない会話をしているうちに、深成の小さなマンションが見えてきた。

「今日のお夕飯は、おでんだよ。昨日のうちから煮込んでおいたんだ」

「ほぉ。お前、料理出来るのか」

「今更何言ってんの。おせち作るって言ってるじゃん」

「おせちって、買った物を詰めるだけじゃないのか?」

「もーっ! 何見てたのっ。ちゃんとエビも鶏肉も買ったでしょっ。わらわ、おせちは全部ちゃんと作るんだからーっ」

 ぶーぶーと頬を膨らます深成に、ちょっと真砂は驚いた顔をした。
 そういえば、確かに出来合いの物は買っていない。

「そらぁ……大したもんだが」

 しげしげと深成を見る。

「ま、とりあえず今日のおでんを楽しみにしててよ」

 珍しく勝ち誇ったように、ふふんと笑いながら、深成は自分の部屋へと真砂を案内した。