駅に着いた頃には、深成は雪まみれになっていた。

「うう……寒~い」

 ぼそ、と言い、駅の改札近くで辺りを見回す。
 時計は十二時過ぎ。
 約束の時間は過ぎている。

「遅いな……。課長が遅刻するなんて」

 何となく、絶対に遅刻はなさそうなタイプだ。
 絶対早くも来なさそうだが。

 電車が遅れてるのかな、と、深成はとことこと、改札の内側に見える電光掲示板に歩み寄った。
 そのとき、す、と前に人が立ちはだかった。

「……あ、課長」

 顔を上げると、スポーツバッグを抱えた真砂が、怪訝な表情で深成を見ている。

「あれ? どこにいたの? 改札から出てきたわけじゃないよね?」

 ということは、今着いたわけではないようだ。

「なんちゅう格好してるんだ。道理でわからなかったはずだよな」

 呆れたように言う。
 きょとんと見上げる深成は、膝まで隠れるもこもこの白いコートにチェックのマフラーをぐるぐるに巻き、ぼんぼりのついた帽子を目深に被っている。

 マフラーを鼻まで引き上げているので、目だけしか出てない状態だ。
 これではいくら親しかったとしても、すぐには誰かわからないだろう。

「だって寒い。課長こそ、そんな薄着で寒くないの?」

「別に薄着じゃない」

 真砂はグレーのコートに軽くマフラーを巻いただけだ。
 普通の格好といえば普通だが。

「上着も薄いし、顔は裸じゃんっ。何よりお耳が出てる~~っ」

「大袈裟だ」

 ポッケに突っ込んでいた手を出して、深成が真砂の耳を指す。
 当然その手は手袋に覆われていた。

「さぁ、さっさと買い物を済ませるぞ。早くしないと、どんどん雪が積もる」

 とっととショッピングモールのほうに歩き出す真砂の後を、もこもこの深成は、とてとてとついて行った。