「……あの子、ちょっと難しいなぁ」

 ぼそ、と呟きながら、六郎が立ち上がる。
 その横で、深成はきょとんと六郎を見上げた。

「そう? ちっちゃいくせに斜に構えて、可愛いじゃん」

 にこにこと言う。
 深成がそう言えば、そう思えなくもないかな、と思っていると、つい、と六郎の腕が引っ張られた。
 見ると、あきが目を擦りながら六郎を引っ張っている。

「あ、そろそろお昼寝の時間か」

 言いながら六郎は、あきを抱き上げた。
 深成が皆のほうへと走っていく。

「は~い。皆、集まって~。お昼寝の時間だよ~」

「え~っやだ~」

 遊びたい子は逃げ回る。
 こらっと言いつつ追いかける深成と追いかけっこになり、子供たちはまた、楽しそうに走り回った。

「ほらっ。ちゃんとお布団に入らないと、お話してあげないよ?」

 いつも深成は、お昼寝のときに皆にお話を読んであげている。
 それがなかなか好評なのだ。
 若干まだ暴れはするが、皆布団に寝転がった。

「ん~と、じゃあ今日は何のお話にしようかな?」

 わくわく、と皆がお話を待つ中で、真砂がずりずりと深成に這い寄った。
 そして、ずい、と持っていた絵本を差し出す。

「ん? これがいい? じゃ、これね」

 真砂から絵本を受け取り、深成は軽く真砂の頭を撫でた。
 そのまま真砂は、大人しく深成にもたれかかった。

「真砂くん。駄目だよ、ちゃんと横にならないと」

 六郎が真砂を引き寄せて、深成から離そうとする。
 が、真砂はぶん、と身体を振って、六郎の手を振り払った。

 そして、再び深成にくっつく。
 先程よりもあからさまに、深成の腕に、べたりと貼り付いた。

---な、何だ、この子は。そもそも私が頭を撫でたら物凄い目で睨んだくせに、深成先生だと大人しくしてるとは何事だ。こ、こんな子供のうちから色気づきおって……---

 あまりに扱いの違う真砂の態度に唖然としながら、六郎は目の前で深成にまとわりつく真砂を見た。
 小さいのをいいことに、真砂は深成の膝に座っている。

---くそっ。ガキであることを利用して、やりたい放題だな---

 苛々と、六郎は少し離れたところから、真砂を睨んだ。
 最早怒りの根本が変わってきているが。