「さぁ、痛いの取って貰いましょうね。真砂先生は上手だから、すぐ終わるわよ」

 小咄では毎度のことだが、丸っきりの子供扱いで、あきが深成を促す。

「ほら、上手な先生で良かったじゃないか。すぐ終わるってよ。ちょっとの辛抱だよ」

 捨吉も深成を剥がしながら言う。
 だがやはり深成は、う〜〜っと唸りながら、猫のように捨吉の服に爪を立てる。
 捨吉とあきが困っていると、真砂が痺れを切らしたように、ずい、と三人に近付いた。

「俺の患者はお前だけじゃないんだ。呼んだらとっとと来いっつってるだろ」

 言うなり、べりっと力任せに深成を捨吉から引き剥がす。
 そしてそのまま、深成を担いで奥に入って行った。

 その間、約二秒。
 あまりの早業に、一瞬ぽかんとしていた深成だが、中に入って例の診察台が目に入った瞬間、我に返った。

「ぎゃーーーっ!! い〜〜やぁ〜〜!! 放せぇ〜〜〜っ!!!」

 絶叫し、真砂の肩の上で、力の限り暴れ回る。
 ち、と真砂は舌打ちした。
 患者に対する態度ではない。

「おいあき! 押さえておけよ」

 慌てて後を追ってきたあきに言うと、真砂は片手で深成の両手首を拘束し、そのまま彼女を肩の上から診察台へ落とした。
 どた、と深成が診察台におさまると、素早くあきが深成の両足を押さえつける。
 両手両足を拘束された状態だ。

 真砂は掴んでいた深成の両手を、ちょっと考えた上で離した。

「治療中に下手に暴れたら、頬に穴が開いたり、鼻の穴が三つになったりするからな」

 低く言われたことに、暴れ再開しようとしていた深成の身体が固まった。
 そんな深成に、ふん、と鼻を鳴らすと、真砂はマスクをしてライトをつけた。

「どれ、口開けてみろ」

 マスクをしたせいで若干籠もった声で言いつつ、真砂が少し身を乗り出す。
 その右手には、銀色に光る器具。
 ふるふるふる、と震えながらも、深成はぎゅうっと唇を引き結んだ。

 マスクのせいで真砂は目だけしか出ていないのに、その目が鋭くなる。
 目は口ほどに物を言う、とはよく言ったもので、その瞬間、びびくん! と深成は竦み上がった。
 眼力だけで、ここまで人をビビらす人も、そういないだろう。

 あまりの恐ろしさに、ふにゃ、と深成の顔が歪んだ。
 じわぁ、と涙が浮かぶ。

 が、頑なに口は閉じている。
 真砂は相変わらず冷たい視線を深成に落とすと、ちょい、と腫れた頬を指先で突いた。

「いたっ!!」

 思わず叫んだ瞬間、深成の口に真砂の拳が突っ込まれた。

「はがっ」

 拳といっても、さすがに全部は入らない。
 入っている指で無理やり深成の口を中から押し開けると、真砂は手早く器具を使って、深成の口を固定してしまった。

「〜〜〜っっ」

 口を閉めることはおろか、声を出すことも出来ない。
 軽くパニックになる深成をそのままに、真砂はかちゃかちゃと器具を探り、再び深成を覗き込んだ。
 そして念入りに、口腔内を診察していく。