「深成ちゃん〜。チョコ、出来たの?」

 二月十日。
 そろそろ女子のスイッチが入るころだ。
 あきが、いそいそと深成の机へと駆けてきた。

「ううん。でも週末に練習したから大丈夫。あとは前日に、頑張って作るんだ」

「へ〜。何にしたの?」

 目尻を下げて言うあきに、深成はごそごそと鞄を探った。
 そして、小さい袋を取り出す。

「はい。ちょっと早いけど、あきちゃんにもあげるね」

 差し出された袋を受け取り、あきはそれをまじまじと見た。
 歪な形のクッキーが、でんと入っている。

「……何これ」

「うさちゃん」

 ああ、とあきは、がさごそと袋を開けた。

「タコかと思った」

「上下が逆だよっ」

 とはいえ、うさぎの耳にしては、ぶっといのだ。
 ……タコの足としても太いのだが。

「うさちゃんの耳、細くしたら折れちゃうんだもん。でも味は美味しく出来たんだよ」

 にこにこと言う深成の前で、あきは、ぱきんとうさぎの耳を半分折った。
 そしてそれを、口に入れる。
 
 ちなみにうさぎは顔だけだが、その顔が手の平大。
 耳半分でも結構な量だ。

「……あら、意外に美味しい」

「そうでしょっ?」

 ぱぁ、と深成が笑顔になる。
 何気に失礼なあきの感想を気にするでもなく、深成はうきうきと鞄を持った。

「これね、白うさちゃんと黒うさちゃん作ろうと思うんだ〜。黒はね、ちょっと苦目にして、大人っぽくすんの。別に先生、甘いもの嫌いとも言ってなかったけど、何となく先生には、大人っぽいものが似合うし」

「そうねぇ……。実際大人だしねぇ。うふふふ、お返しが楽しみねぇ。深成ちゃんに限ってないと思うけど、一人で大人になっちゃわないでね」

 ふふふふふ、と怪しく笑うあきに、深成はきょとんとした目を向けた。
 後半部分は何のことだかさっぱりわからないが、確かにお返しは何をくれるだろう。
 その前に。

「お返しかぁ。くれるかな?」

「くれるわよぉ。クリスマスプレゼントだってくれたんでしょ?」

「あれは、たまたまだよ。そうだ、クリスマスプレゼント貰ったんだし、あのお返しもしなきゃ。もうちょっと、良い物あげようかなぁ」

 ぶつぶつと考える深成を、あきは目を細めて眺めた。