「ちゃんとしたものと言うなら、なおさら作る必要はないだろ」

 子供の作る料理ほど、恐ろしいものはない。
 ましてこれぐらいの年齢は、初めて本気チョコを作ろうという年頃だ。
 無駄な張り切りが、裏目に出ることはよくあることである。

 なかなか容赦ない言葉を浴びせる真砂だが、深成は気にしない。

「うもぅっ! 先生、女心がわかってない〜っ。好きな人には自分の手で、美味しいもの作ってあげたいじゃんっ」

 ずばりと言う。
 真砂は一層妙な顔をした。

「何だよ。お前、俺のことが好きなのか」

 あ、と深成は、慌てて自分の口を押さえた。
 が、すでに遅い。

 しょうがない、と深成は赤くなりつつも、真砂を見つめた。
 別に真砂は、何の反応もしていない。

「……だって先生、格好良いもん」

「普通だろ」

 あくまで素っ気なく言う。
 照れているとか、そういった心の動きは全く見えない。

 告白されたようなものなのに、ここまで態度が変わらないというのも珍しい。
 はた、と深成は、あることに気付いた。

「もしかして先生。こういうこと、言われ慣れてるのっ?」

 これだけ格好良いのだから、告白されたことがないわけがない。
 反対に、あまりに告白されすぎて、何とも思わなくなっているのではないか。
 深成の告白など、いつもの世間話ぐらいにしか思わないのかもしれない。

「……まぁ、それなりにな」

 ぺらぺらと参考書を捲りながら言う真砂に、深成は、がぁんと仰け反った。

「そ、そんなぁ……」

 しょぼぼ〜〜んと項垂れる深成だったが、考えてみれば、自分でもわかっていたことではないか。
 彼女がいなかっただけでも、儲け物と思わねば。

「あ、でも! 彼女いないんだったら、告白されても振ってきたってことだよね!」

 ぱ、と明るい表情になって言う深成に、真砂は、そうなるな、と答えた。

「それじゃ先生! わらわ、頑張って美味しいもの作るから!」

 真砂はちょっと眉間に皺を刻んだが、ふ、と息をついた。

「……美味いものにしてくれよ」

「うんっ! そうだ、マフラーとか、編んであげよっか?」

「やめてくれ。何歳だよ。手編みのマフラーなんぞに萌えるか」

「ええ、そう? だってチョコなんて、食べたら終わりじゃん。何も残らないし」

「だからいいんだろ」

 いまいち深成の告白をどう思っているのかわからない。
 チョコを拒否するわけでもなし。
 でも綺麗さっぱりなくなるほうがいいと言う。

 う〜む、と悩んでいるうちに、真砂はさっさと荷物をまとめて、帰って行った。