「わらわ、課長にしか甘えないもん」

 ぼそ、と聞こえた声に振り向けば、深成が俯いている。
 しばしそのまま時が流れ、意外に甘やかな空気が漂いそうになったとき、しん、となったお陰で雷鳴が聞こえた。

「うにゃあっ!」

 ぴょこん、と深成が飛び上がり、一気に真砂との距離をゼロにする。
 が、やはり勢いがありすぎて、漂いそうになった甘い空気は見事に打ち砕かれた。
 どかん、と深成に突進され、真砂は寝室のドアにぶち当たる。

「お、お前は〜〜」

 ぐいぐいとドアに押し付けられながら、真砂が胸にへばり付く深成を睨む。
 だが当の深成は勢いで開いたドアから寝室に目をやると、ばびゅん、とベッドに飛び乗った。
 そして布団の中に潜り込む。

 真砂は呆気に取られて、ベッドの上で震える布団饅頭を見つめた。

「おいこら。布団独り占めにすんな」

 とりあえず電気を消し、枕元の小さな灯りだけにした上で、真砂はベッドに乗りながら、丸まっている深成から布団を剥ぎ取る。

「くっ暗くなったら、稲妻がわかっちゃうもん〜〜っ」

「もうそんなに鳴っとらん!」

 ぎゃーぎゃーと暴れる深成から布団を奪った真砂は、ぎょっとした。
 暴れたお陰で、深成の着ているシャツが捲れ上がっている。

 真砂のシャツなので、小さい深成が着ると、十分ワンピースだ。
 膝ぐらいまであったので、別に目を引くこともなかったのだが。

 今真砂の目の前には、深成の桃のようなお尻がある。

「おおおおお前は〜〜っ! ほんとにどこまで無防備なんだっ!!」

 額に青筋を立てんばかりの真砂に、深成はさすがにビビった。
 ささっとベッドの上で正座する。

「ごめんなさい〜っ! だってほんとにわらわ、雷のときはお布団に潜らないと怖くて」

「そんなことじゃない!」

 奪っていた布団をベッドに叩き付け、真砂はずいっと深成に顔を寄せた。

「お前、自分が今どういう状態か、わかってんのか!!」

「はいっ! 課長のお布団を占領しました!」

「阿呆! てめぇの格好だ!! 何だ、その格好は! 何故その下に何も着ていない!」

「だ、だって、パンツ洗っちゃったんだもん」

「〜〜〜っっ」

「い、いくら何でも、課長のトランクスを借りるわけにもいかないでしょ。だから、今洗っちゃえば、朝までには乾くと思って……」

 焦々と説明する深成に、真砂はひくひくと頬を引き攣らせ、拳を握り締めた。
 まさか、パンツもはいてないとは。