「さぁ! ハンティングリレーの羊さん選びだよ〜!」

 深成がB組の皆を集めて、大きな竹筒を掲げた。
 振ると、じゃらんじゃらんと音がする。
 神社などにある、おみくじのようだ。

「これ振って、出てきた竹串の先っちょに、赤い色が付いてたら羊さんだよ〜」

 叫びつつ、竹筒を回していく。
 なかなか当たり(というのか?)が出ない。
 千代が竹筒を手にした。

「ふふ。私が羊になって、真砂先生に担いで貰うんだ」

 妖艶に微笑みながら、じゃらじゃらと筒を振る。
 そして、勢い良く逆さまにした。

「出(い)でよ! 当たりくじぃ〜!」

 千代の掛け声と共に、からん、と一本竹串が落ちた。
 深成がそれを拾って確かめる。

「残念〜。外れで〜す」

「ええっ! そんなぁ」

 あからさまに落胆する千代から竹筒を受け取り、深成はからからと軽く振ると、下に向けた。

「あ」

 足元に落ちた竹串の先には、赤い印。

「ええっ! わらわが羊ぃ〜?」

 顔を顰めて言う深成だったが、千代は恨めしげな目を向ける。

「何が不満なんだいっ! 真砂先生に担がれるってのに!」

「真砂先生に担がれるとは限らないじゃん! それに、羊さんって怖いんだよ! 柵の中追っかけられるし、担がれたら担がれたで、凄い攻撃が待ってるんだから〜。落とされるかもしれないしさ〜っ」

 ちなみに、担いだ羊を落としたら、羊は一目散に柵へと逆戻り。
 やり直しである。

 ぎゃーすかと二人が言い争っていると、あきが走ってきた。
 やけによろよろしている。

「み、深成ちゃぁ〜ん……」

「あれっあきちゃん、どうしたの?」

 青い顔のあきに、深成が仰天して駆け寄る。

「あ、あのさ。うちのクラス、皆羊さん怖くて嫌がるのよ。だから仕方なく、実行委員のあたしが羊になる予定だったんだけど、ちょっとお腹が痛くなってきちゃって。でね、悪いんだけど、深成ちゃん、羊さんやってくれないかな」

「えええ? でもわらわ、うちのクラスの羊さんなんだよ〜」

「あら? そうなの?」

 きょとん、と顔を上げたあきは、さっきまでのしんどそうな表情ではない。
 が、それは一瞬で、さっと元の顔色に戻る。
 そこに、千代がずいっと割り込んだ。

「じゃあ、私が代役やるよ! いいだろ?」

「え、ああ……」

 あきは少し考え、すぐに頷いた。

「……そうね。じゃあ千代姐さんにお願いするわ」

「やったぁ。お任せあれ〜」

 嬉しそうに万歳する千代を見つつ、あきは密かに目尻を下げた。

---そうね、千代姐さんが入るのも面白いかも。邪魔は多いほうが面白いもの。それにしても、すでに深成ちゃんが羊だなんて。きっと神様も、午前の部以上のデッドヒートをご覧になりたいのね。ああ、こんな面白い戦いに、呑気に参加してる場合じゃないわよ。参加なんかしちゃったら、ゆっくり見れないじゃない。ここは外側から、じっくりと見物しないとね---

「あきちゃん、大丈夫なの? 保健室行く?」

 うふふふ、と笑うあきに、不意に深成が声をかけた。
 はた、と我に返り、あきは戻っていた血色を慌てて無くす。
 鼻血に加えて、最近は顔色まで操れるようになったようだ。

「大丈夫よ。すぐに治るわ。ただ羊さんは、ハードだから……」

 保健室などで寝ている暇などないのだ。
 何のためにリレーから外れたのか。

「そうだね。まぁあんたは安心して休んでな」

 千代が、ぽんぽんとあきの肩を叩いた。