「聖職者は、精霊の代理人。しかし、誰もそのようなことは頼んではいない。勝手に思い込み、勝手に地位を作っただけだ。精霊の言葉? 我々は、言葉を告げたことなど一度もない。奴等の妄想だ」

 次々と明かされていく事実に、エリザは人間という生き物の本質を知る。

 物事には裏と表が存在するといわれているが、聖職者はまさに裏の一面を有している。

 彼等こそ一番醜い生き物。

 笑顔という名の仮面を被り、それが正しいと多くの者に教える。

 だが仮面を外せば歪んだ表情が浮かび上がり、平気で人を殺めていく。

 彼等は、聖職者ではない権力者。

 ひとつの物に執着を見せる愚か者。

 ふと、低音の声音が響く。

 その瞬間、消えていたと思っていた光の塊が無数に姿を現した。

 それは千年という時の流れを再現しており、聖職者が行った罪を証明していた。

 エリザの目の前に、一人の男が現れる。

 その者はエリザに向かって手を伸ばすと、声音を発した。

『痛い……苦しい……』

 それは、呻き声に等しい。

 相手を呪い殺さんとばかりに発せられ、エリザの心臓を鷲掴みにする。

 レスタとフリムカーシの周囲に光の塊が旋回するも、強い精霊の力を感じ取ったのか次々と逃げて行く。

 そして次に狙いを定めたのはエリザであり、まさに一点集中状態だった。

『修道女だ……修道女がいるぞ』

『憎い……憎いぞ』

『私の娘は、お前と同じ年齢で命を絶った』

 光の塊のひとつがエリザの目の前に通り過ぎると、耳元である言葉を囁く。

 それは、子を愛しく思う親の感情でもあった。

 同時に身体に突き刺さるのは、聖職者に対しての恨み辛み。

『ああ、娘には未来があった』

『何故それを奪った……返してくれ……今すぐ』

 積もり積もった感情を、曝け出していく。

 余程凄惨な死を体験したのか、泣き声まで聞こえてきた。

 エリザに攻撃するでもない光の塊の動きに、エリザは身体をくねらせながら避けていく。

『我等は、正しい行いをした』

『そうだ。全ては、あの方の為に……』

『あの方がいてこそ、我等がある。それを何故、拒絶した』

 そう言葉を発した後、光の塊は一斉に攻撃に移った。

 だが、それはエリザだけに向けられたものではない。何も言わず冷たい表情を浮かべていたユーリッドにも、その攻撃が及んだのだ。

 しかしそれは彼等の身を危うくするもので、レスタやフリムカーシが黙っているわけがない。