「主、やはり此処のようです」

 話の腰を折る形で、レスタの声が響く。そ

 れに無言で頷くと、エリザにあることを話しはじめた。

 それは、神話ではなく人が行った現実。

 本来なら裁かれるべき行為であるが、闇に沈んだ聖職者の罪。

「人間は、私の身体を傷付けた。そのことは黒く塗りつぶされ、表に出ることは決してない。しかし、一部の者達がそれを明るみにしようと行動を起こす。だが、聖職者の手によって握りつぶされた。そう、殺したのだよ。僕の祖父は、学者だった。そして、その仲間達も――」

 数十年前、ユーリッドの祖父は多くの仲間を残し逃げた。

 いや、逃げるように言われたのだ。

 大切な物を守るようにと。

 その結果仲間は捕まり殺され、燃える建物と共に真実は失われた。

 涙を浮かべながらそのことを語っていた祖父の姿を、ユーリッドは今でも覚えている。

 そして死ぬ間際に、ある言葉を呟く。

 我等を許したまえ――まるで、人の世界の光と闇を表す言葉に等しい。

「千年前の出来事から現代に至るまで、多くの学者は命を落とした。そして、彷徨える魂は一箇所に集まる。此処に――」

 修道院の周辺で見た光の塊が姿を見せる。

 その数は、先程より多い。これが全て学者の魂なのかと、エリザは息を呑む。

 正確な数は数えられないが、40・50は軽く超えている。

「エリザ。ベルクレリアの温泉は――」

 ふと、何かを掘るような音が周囲に響き渡る。

 その音にエリザは周囲を見回すと、其処にはシャベルやツルハシを持った大勢の人間の姿が仕事をしていた。

 彼等の年齢は様々であったが、共通している部分が一箇所存在する。

 それは、疲労によってやつれた顔をしていた。

「温泉の掘削には、多くの労働を必要するという。その労働者というのは、大半が学者だよ」

 観光客を呼ぶ目玉とされている温泉は、実は学者の手によって掘り当てられた。

 異端者として捕まえた者達の中には肉体労働をさせられ、そのまま死を迎えた者も多い。

 聖職者にとって異端者は別次元で生息する生き物なので平気でこき使い、ボロ雑巾のように捨て去る。

「ベルクレリアの大半は、彼等の手によって造られたといって過言ではない。だから、呪われた街だよ」

 ベルクレリア――精霊達の間では、別の意味で伝わり別の言葉で言われている〈慟哭の地〉この土地は多くの嘆きによって生み出され、大量の血を吸い込んでいる。

 その上で暮らしているのは、真実を隠す聖職者に偽りの信仰を信じている者。

 だから呪われた街と、ユーリッドは言う。