「ノーマと呼ばれし精霊が、人間の命に従うはずがない。四季を司る精霊はあの方の命しか従わないことぐらい、お前達もわかっているだろ。所詮は、下級・中級の精霊に違いない」
そのように言われても、疑念は拭えない。
自分達の側にいた精霊は一人だけではなく二人。
姿は見せなかったが、確かに存在した。
その者は周囲を凍りつかせんばかりの殺気を放ち、仲間の腕を凍り付かせへし折った。
それに傷口から血が流れないのだから、普通では有り得ない。
姿を見せない相手。
あの者は誰か。
流石に、それではどのような精霊なのか見当がつかない。
審問官からそのことを聞いたドロイトは椅子から腰を上げると、背を向ける。
そして、壁に掛けられたレリーフに視線を移す。
それは、世界誕生をイメージして作られたものであった。
この世界は、竜の手によって生み出された。それは、聖職者なら誰もが知っている。
いや、知っていて当たり前の内容だ。
ドロイトは暫くそのレリーフを眺めていると、ユーリッドの正体に気付きあることを呟く。
「精霊使いだ」
「まさか!」
「捕まえたら、私の前に連れて来い。咎人の裁きは、私がやろう。それが精霊への感謝に繋がる」
「御意」
その言葉に、審問官は一斉に頭を下げる。
そして頭を上げると同時に踵を返すと部屋から退出するが、一人の審問官が残る。
その姿にドロイトは、言いたいことがあるならと言葉を発するように命じた。
「死んだ仲間は、精霊の導きを得られるでしょうか。あのような無様な死に方をしまして……」
「無論、我等の行為は正しい」
「それをお聞きし、安心致しました」
「全ては、あの方の為だ」
「わかっております」
「なら、行け」
「御意」
人間は、精霊の導き無しではあの世に行くことができない。
だからこそ多くの者達は、精霊を信仰し崇め奉る。
ドロイトの回答に質問を投げ掛けた者は安堵の表情を作り、命を落とした仲間があちらの世界へ旅立てるように心の中で祈り、ドロイトへ一礼した後退室する。