「同族同士とは思えないな」
『真、恐ろしい生き物です』
「恐れるというのなら、最初から真実を明かしてしまえばいい。怯えて暮らすのも、辛いだろうに」
ユーリッドは、絞った髪を指で弾く。
ピシっと弾かれた髪からは水飛沫が飛び、水面に幾つもの波紋を生み出す。
次の瞬間、大きく広がっていた波紋が一瞬にして凍り付いてしまう。
『も、申し訳ありません』
それは、波紋だけではない。温泉全体が、氷の塊となってしまった。
吹き抜ける風が氷を撫でる度に、全身から体温が奪われていく。
どうやら姿を消している者が怒りに任せ、力を使用したようだ。
『すぐに……』
「いいよ。僕がやる」
その言葉と共に拳を振り上げ、一気に下ろす。
刹那、拳で叩かれた部分を中心に蜘蛛の巣状のヒビが入った。
そして生み出されたヒビは凍りついた温泉一面に広がり、音をたて割れていく。
これだけでは、温かい湯には戻らない。
次に手近にあった氷の塊を手に取ると、小声で呪文を唱えだす。
呪文の詠唱と共に赤くなっていく氷の塊を無造作に割れた氷の上に投げ落とすと、大量の水蒸気が発生し周囲を白く染める。
すると全ての氷が溶けたのか湯気が立ち上り、もとの熱い湯に戻った。
その後ユーリッドは冷え切った身体を暖ようと、湯の中に浸かることにした。
『し、失礼しました』
「別に、怒ってはいない。ただ、これからは気を付けてほしい。お前の力は、身体に堪える」
湯から頭を出したと同時に、注意を促す。
一瞬にして湯を凍り付かせる能力は、一歩間違えたら大事に発展してしまう。
いや、過去に起こしていた。それは、ひとつの街を雪の下に沈めた。
「レスタ、お前は……」
「ユーリッドさん」
ユーリッドの言葉を遮るかたちで、エリザの声が響き渡る。
その声に会話を中断させると、彼女のもとへ向かう為に温泉から出ようとするが何やら人の気配を感じ、反射的にその方向に視線を向けると相手を凝視する。
何と目の前にいたのは、エリザであった。
予想外の人物の突然ともいえる登場に、ユーリッドの悲鳴が轟く。
一方のエリザはユーリッドの突然の悲鳴と自分が無意識のうちに男湯に立ち入ってしまったことに驚いたのか、急いでその場から逃げるように立ち去っていた。


