笛や太鼓の音色が、ベルクレリア中に響き渡る。

 そして美しい衣装を着た人々が街の中心に集まり、踊り明かす。

 全身で豊穣への感謝を表し、来る冬が平和であるよう祈りを捧げる。

 しかしユーリッドは、足早に目的の場所へ向かっていた。

 その場所とは、エリックと約束した場所。

  それは“物語の発端”を示す場所であり、静寂と悲しみが今も残っている切ない場所であった。

「あれ、早かったね」

「時間を言ってくれなかったので、適当な時間に来てみました。一応、あっていたみたいですね」

「それは、悪かった」

 エリックは時間を指定してくれなかったが、ユーリッドは大体の目星を付けていた。

 込み入った話をする場合、街に繰り出している人物は少ない方がいい。

 と言って、夜は明かりが目立ってしまう。

 そう考えると、前者が適当。

 そう分析を下したユーリッドに、エリックは感心した。

「素晴らしいね」

「難しい推理では、ありません」

「頭の回転が速い子は、好きだよ」

「冗談は、顔だけにして下さい。貴方が時間を指定してくれれば、面倒ではなかったのですから」

「おお、怖い」

「怒りますよ」

 昨夜は真剣な面持ちを浮かべていたというのにお調子者を演じているので、ユーリッドは容赦なく毒を吐く。

 これが真面目な一面の彼であったら話は別だが、この性格の時は手加減無用と考えている。

 何より、そうしなければ相手のペースに巻き込まれてしまうからだ。

「うん。その返しはいいね」

「一体、どちらの性格が正しいのですか? それとも、二重人格と思ってもいいのでしょうか」

「失礼だね。どちらも、同じだよ。ただ、時と場合によって変化していくけどね。役者だよ」

「自分で言うことですか」

 最後に付け加えられた言葉に、ユーリッドは口許を緩めてしまう。

 エリックは時折、真実を別の単語で言葉に変換し相手に伝えていく。

 そのことを理解しているユーリッドは、態と肩を竦めた。

 しかし理解していない者が彼の言葉を聞いた場合、額に血管が浮き出ているかもしれない。