風の放浪者


「神話の中に存在している〈時の眠り〉というものは、本当はどのような内容だったのですか」

「一言で言えば、人間の罪というべきだろう。人間は繁栄を築いたと同時に、自然への恩恵と感謝を忘れてしまった。それ故に、世界のバランスが崩れてしまう。世界は、一度死んだのだよ」

「それは、司祭様のお話で知りました。その時の罪は、今でも背負っているということを――」

「その崩れてしまったバランスを正しい方向へ修正したのが、君が質問してきた竜なのだよ」

 その言葉に、エリザはユーリッドの質問の意図を理解した。

 彼は、竜が世界を修正したことを知っていた。

 知っているからこそ、あのような言い方をしてきた。

 修道女である自分が知らなかったことを知っているユーリッドという人物に、エリザは不安と疑念を抱いてしまう。

 一体、何者――

 しかし今、その回答を導き出すことはできない。

「だからこそ、精霊の他に竜にも感謝をしなければいけない。このように我々が、生きているのだから」

「それでしたら、何故そのことを言わないのですか? 多くの者達に伝えた方が良いと思います」

「このことに関しては、論争中なのだよ。竜は存在する存在しないで、揉めているのだ。だが、多くの者は存在すると信じている。精霊を生み出したのは、彼等であることにはかわりない」

「そうでしたか。本当に、有難うございます。司教様のお陰で、迷いを晴らすことができました」

「それは、良かった」

 司教の優しい言葉にエリザは返事を返し恭しく頭を垂れると、その場を後にする。

 立ち去るエリザの背中をドロイトは暫く眺めていると、真剣な表情を浮かべつつ何やら深く考えごとをしだす。

 そしてひとつの答えが導き出されると、ゆっくりとした歩調で歩きはじめていた。


◇◆◇◆◇◆


 その夜、ユーリッドはエリックのもとへ訪れていた。気に入らない相手であったが礼拝堂前でのやり取りによって、多少は見方が変わってきたからだ。

 しかし性格は相変わらずのもので、時折ユーリッドの神経を逆撫でする。それに相変わらずの人を食ったような口調が、気に入らなかった。