風の放浪者


 その時、先程エリックと交わした会話を思い出す。

 そして思う、エリザは神話の真実を知っているのか。

 相手は修道女なので正しい解答は期待していないが、ユーリッドは興味本位で尋ねてみる。

「あれを真実だと思いますか?」

「改まって、どうしました?」

「賛美歌で歌っていた、約千年前に起きた出来事。時の眠り――と呼ばれているその真実を、貴女はどのように思っているのか。そして、竜という生き物は本当に存在するかどうか……」

「竜は、確かにいると思います。ですから、世界はもとの正しい姿を取り戻しました。あの悲惨な出来事は、私達が起こしてしまったことですから……今は、そうならないように努力しています。司教様も、そのように仰っていました。ですので、精霊信仰が存在します」

 エリザは、上から教えられた話を正しいと思っていた。

 いや、これはエリザだけではない。大勢の修道士や修道女が、上から教えられていることが正しいと認識している。

 しかし其処に偽りが存在していたら、果たして彼等は信じるのか。

 そのような疑問を抱いた瞬間、ユーリッドの瞳が怪しく輝く。

「違う。貴女自身の考えです」

「そう言われましても、そうだとしか言えません。もしかして、ユーリッドさんは違うと思っているのですか? それは、精霊に対しての侮辱です。そのようなことは、絶対に言ってはいけません」

「精霊だけね……」

 囁く言葉は、エリザに届いてはいない。

 精霊という生き物は、竜に従う存在。

 その根本的な部分を忘れ「精霊への侮辱」と言うのは、支離滅裂な考えとなってしまう。確かに、精霊の加護によって世界は成り立っている。

 しかし、竜がいなければ精霊は誕生していない。

「おかしいですか?」

「精霊は、竜が生み出した存在だ。だから、精霊のみという表現は、おかしいと思っている」

「それは、わかりません。詳しく知りたいというのでしたら、司教様に聞いてください。私のような下の者に……」

「確かにそうだね」

「で、ですので……」

 エリザは今まで自分が信じてきた信仰に疑問を抱きはじめたのか、それ以上の言葉が続けられることはなかった。

 エリザも何処かおかしいと思っているのだろう、それでも竜という存在が滅多に語られないこの現代、疑問を抱いたとしても本質に気付くというのは難しい。