風の放浪者


「わかっているだろ?」

 そう相手に尋ねても、返事は返って来ない。

 しかしユーリッドは返事をしてこない相手の心理を理解していたので、更に言葉を続けていく。

 すると相手は観念したのか、低音の声音で言葉を発する。

『……味方と思って、宜しいのですか?』

「お前が疑問を述べるというのは珍しい。いつもであったら、即答するお前が……あの者は、物事の真相に近い場所にいる。だから、味方といっていいだろう。少し、変わっているが」

『油断は、できません』

「それは、平気だ。あのように見えて、物事の本質を見抜いている。しかし今は、まだ……それに、口振りからして僕と同業者といっていい。聖職者より、神話を知っているからな」

『それでしたら……』

「僕は、彼が苦手なんだよ」

 その一言で、全ての説明が付いた。悲痛な訴えとも取れる発言に、相手は溜息を付く。

 それは理解できなくもなく、それにしつこくべったりとされたら心が広い人物であってもエリックのことを嫌いになってしまう。

 また、最大の原因はあの地上最低の歌声といっていい。

『消しますか?』

「駄目だ」

『苦手と仰っていました』

「そうだけど、駄目だ」

 相手の危険な発言に、間髪いれずに否定の言葉で制する。

 精霊という生き物は性格が一本の部分があるので「好き」や「嫌い」で物事を判断した場合、時として常識離れした考えを導き出す。

 エリックは、ユーリッドが苦手としている人物。それなら、その者の存在自体を消してしまおう。

 何ともわかり易い行動であるが、人間から見たら非常識そのもので危険すぎる思考だ。

 つまり精霊に人間の一般常識を求めるのは難しく、彼等の感情を理解できる者はごく僅か。

 たとえ相手が精霊使いであったとしても、彼等の考えを容認できるものではなく受け入れるのも難しい。

「ユーリッドさん」

 その時、もう一人の苦手の対象者であるエリザの声が聞こえてくる。

 礼拝堂にユーリッドの姿がなかったことに不信感を覚えたのか、彼女の声音は明らかにユーリッドを捜しているようだった。

 すると彼女の声にユーリッドは大切なことを思い出し、顔を引き攣らせてしまう。