「ああ、大事なことを忘れていた。一緒に、食事をしようよ。君と話したいことが沢山あるんだ」
「結構です!」
「君は、私を拒絶するね。いけないよ、目上の人を尊敬しないと。トラブルの原因になってしまう」
「尊敬してほしいのなら、真面目に振舞ってください。そうすれば、尊敬をしないこともないですが。では、失礼します」
「スルド・ベルシース」
エリックが囁くように発した言葉に、ユーリッドの脚が止まった。反射的にエリックの顔を睨み付けると「どうして物事の真理を知っているのか」と、無言の圧力を掛けていく。
やはりユーリッドの読み通り相手は食えない人物で、何より彼の本心が何処にあるのかわからない。
「何処で、それを……」
「吟遊詩人だから」
「真面目に、答えてください。貴方は、古代語も理解できるのですか? 一体、何者なのですか」
「君だって、古代語を理解しているようだが」
「精霊との契約には、古代語を用いる場合もあります。ですので、古代語の勉強をしました」
「へえ、そうなんだ」
ユーリッドが語っていく言葉のひとつひとつから、エリックは彼という存在を理解していく。
一方ユーリッドは、相手の性格と立ち振る舞いから彼という人物の形を見出していくが、エリックは気付いていない。
ユーリッドは、全ての面を曝け出していないことを――
「君と私は、共通する部分があるようだね」
「認めたくないですが、そのようです」
彼等が熱い討論を交わしていると礼拝堂の扉が開かれ、賛美歌を聴いていた大勢の人が一斉に溢れ出してくる。扉の前で立ち話をしている二人は彼等の邪魔にならないように隅に避けると、行き交う人の流れに視線を走らせる。
その時、エリックが小声で話し掛けてきた。
「この話の続きは、また今度。もし聞きたかったら、宿に来るといいよ。場所は、この修道院の近くだから」
そう言い残すとエリックは踵を返し、街へ向かう。
徐々に小さくなっていく無礼者の後姿に対し、ユーリッドは一言言葉を発する。それは精霊を召喚する呪文であり、同時に冷たい気配が生まれた。
この気配はフリムカーシではなく、昨夜部屋の中で感じた気配と同種のもの。


