それに混じる形で、此方に近付いてくる不穏な音が聞こえてくる。

 「あいつ等」と、誰かが囁いた言葉に、全員が一斉に頷く。

 詳しく語らなくとも、誰もが音の正体を誰もが知っていた。

 聖職者。

 それも、相手は異端審問官。

 恐怖の影響で感情の制御ができなくなってしまったというわけではないが、全員の口許が緩む。

 真実を知った今、異端審問官の存在はどうでもよかった。

「奴等らしい行動だ」

「そんなに己の身が大切か」

「真実を知られたくないのだろう。これが明るみになれば、今まで築き上げてきたモノが一瞬にして崩れ去ってしまう。地位も名誉も、それらは彼等の存在を彩っている大事なものだから」

 それは、多くの探求者の言葉を代弁するもの。しかし、精霊に仕える聖職者に握り潰され闇に葬られてしまう。

 この場合「仕える」という言葉は適切ではない。本当に心の底から精霊を信仰しているというのならこのようなことは行わない。

 だが、彼等はそれを平然と行う。

 「精霊を侮辱する者は――」という大義名分を掲げ、聖職者は不都合な存在を排除していく。

 結果、血が流れ多くの者が死んでいく。血を浴びた聖職者は堕落していくが、彼等はそれも認めない。

 認めないからこそ、異端審問官を使い自分達を排除に掛かろうとしている。

 侮辱しているのはどちらか。

 異端者は誰か。

 そもそも、人間が決めていいものではない。

 だからこそ、聖職者が行なう行為は無意味に近く、それどころか締め付けを強めれば強めるほど反発を招くことを彼等は気付いていない。

「己が、精霊になったつもりか」

「おこがましい。自分達の行動が、あの方の御心を苦しめているということを知らぬのか……」

 年長者が言う“あの方”というのは唯一人間の罪を裁け、血の呪縛から解放してくれる者。だが、“あの方”は人間を見捨てたのか、“あの方”からの言葉を聞いた者は誰もいない。

「我等が主よ――」

 祈りの言葉に、けたたましく鳴り響いていた心音が落ち着きを取り戻していく。

 皆、覚悟はできていた。

 それに真実は隠そうとしても、いずれ明らかになり人々の耳に届く。

 それを求めようとしている者がいる限り聖職者との争いは続くが、いずれ探求者が勝つと確信していた。