「面白くない」
「自業自得です」
「君も、同じじゃないのかね?」
「僕は、違います。自ら、途中で出て来たのです。ですから、貴方と一緒にしないでください」
言葉の隅々に顔を見せる鋭い刺に、エリックの額から一筋の汗が流れ落ちる。
どうやらエリックはユーリッドも追い出されたと勘違いしていたらしく、思わず“仲間”と言いそうになってしまうが、慌てて口をつむぐ。
それを言ってしまったら、二度目の攻撃が飛んで来ると察したらしい。
「で、お聞きしたいことがあります」
「うーん、何かな?」
「貴方は、何者なのですか? 自称、吟遊詩人とは思えません。その人を食ったような態度……只者ではないです」
「違う! 自称じゃなくて、正真正銘の吟遊詩人なんだけど。何なら、一曲歌ってあげようか?」
「結構です」
否定の言葉に、エリックはへこんでしまう。
自分の歌に相当の自信を持っているのか、断られたことにショックを受けていた。
しかし、歌声を響かせるわけにはいかない。
礼拝堂の中では賛美歌が歌われているので、これをエリックの歌で妨害するわけにはいかなかった。
「質問に、答えて下さい」
「吟遊詩人じゃ駄目?」
「貴方はあの時、竜は三匹だと言いました。このことは、聖職者の間で論議が繰り広げられています。無論三匹ということが公式の記録となっていますが、自信を持って言えることではありません」
「世界中を旅していると……」
「そのことも聞きました」
鋭い言葉に、エリックはたじろぐ。
いつもなら人を食ったような表情を浮かべているエリックであったが、今は違う。
真剣な面持ちでユーリッドを見詰めるその顔は、まるで別人といっていい。
「これも言ったことだけど、聖職者は信仰を広めてナンボの職業だと思っている。だから、時として演出だって行うものだよ。つまり、演劇と同じだと思っていい。人々が望むように都合良く脚色していって、いつの間にかそれが正しい演目となってしまう。そして基がどのような話であったかは、時の経過と共に忘れ去ってしまう。いや、そのような物は最初から存在しない。竜が三匹という話も、それと同じだろうね。だから、誰も気にしていない」


