(上手いな)
本職の歌声を参考に評価を下すと、本職より上手い。
声に自信がある者達を集めたのか、これほどの賛美歌はまず聴くことができない。
それに、これなら聖歌隊として活躍できるとユーリッドは評価を下す。
精霊へ捧げる歌。
しかし誕生の年代と詳しい経緯は、記録に残っていない。
それだけ古い時代から伝わっており、今も昔も彼等に対しての感謝の気持ちと方法が変わらないということだ。
ノーマ・エストリース。
それは、歌詞の中から聞き取れた言葉。
古代語で〈慈悲深き眷属〉という意味を持っているが、この意味を知っている者は数少ない。
だから、彼等が真の意味を知って歌っているか怪しい。
ユーリッドが古代語を知っている訳は、祖父が古代語を研究する学者であったからだ。古代語は、小さい頃より慣れ親しんだ言葉。
よって日常会話程度なら、古代語で会話をすることができる。
しかし、独特の訛を持っているので聞き取るのは難しく発音も難解であった。
〈ノーマ〉という単語は、四季を司る精霊を示す。
春を司る精霊レイシア。
夏を司る精霊ラグル。
秋を司る精霊フリムカーシ。
そして、冬を司る精霊レスタ。
彼等を総称して、人々はノーマと呼ぶ。
ノーマとは、白き竜の眷属。彼等は世界を巡る季節を司ると同時に、自らの主人の守護という役目も帯びている。
だから何人たりとも白き竜の側には寄れず、下手をすれば力を振るわれる。
白き竜は、真に存在するのか。
だからこそ、人間の間ではそのように言われてしまっている。
噂は白き竜を幻の存在とし、歴史の奥底に閉じ込める。記録は殆んど残っていない。
故に、白き竜は伝説となっている。
「フェル・ティスト」
囁くように呟いた言葉。それは古代の人間が可の者に祈りを捧げる時に用いた、一種の決まり文句。
〈大いなる力〉そう意味している言葉は、今では失われている。
ふと、その言葉にエリックの顔を思い出す。
何故あの人物を思い出したのかとユーリッドは渋い表情を作り、同時に「あいつなら」という思いも浮かぶ。
そう、司教の話を聞いている時ハッキリと言った。
竜は、三匹だと――
それなら、賛美歌の真の意味を知っている可能性が高い。
しかし、だからといって此方側から捜すのが面倒であった。偶然に出会えばいいのだが、此方から捜し出し赴くというのは何だか癪でありユーリッドのプライドが許さない。
それに、此方から捜したとなると負けた感じがする。


