風の放浪者


「で、一人?」

「この時期は、一番動きやすいですので」

「フリムが司る時期だからね」

「ご命令があれば、わたくしは加減なく力を使いましょう」

「個人的には、加減してほしいな。以前、誰かさんがとんでもないことを起こしてくれたから」

 その言葉にフリムカーシは、苦笑いを浮かべる。

 彼が言う“誰かさん”というのは、フリムカーシと同じ四季を司る精霊のことを示す。そしてその人物のせいで、過去ひとつの街が危機的状況を迎えた。

 それだけの力を有している精霊――下手に力を振るえば、世界が崩壊する。

 ユーリッドは、そのことを心配していた。特に彼等は「躊躇い」というものを持っていないので、物事を淡々と遂行していく。

 そして「気に入らない」という一言で、多くの人間が犠牲になってしまう。

 また、フリムカーシを含めて例の“誰かさん”が、その確率的に高い。

「あの件で、少しは大人しくなりました」

「でも、気配を感じた」

「最近、彼の姿を見ないと思っていましたが、マスターの側に行っていたとは……本当に過保護」

 後半の台詞は、相手に聞こえないように呟く。しかしユーリッドの耳には確実に届いていたが、その意見に対しての返答は行わない。

 それについてユーリッドも実感しているのだろう、心の中で溜息を付く。

 彼等は個性豊かな精霊――付き合う側は、苦労と心労が多い。

「何か託がありましたら、わたくしが……」

「いや、いいよ。また来ると思うし」

 肩を竦めつつ、その“誰かさん”に対しどのように対応すればいいか悩む。

 その時、フリムカーシの瞳が怪しく光りだす。

 どうやら一瞬の隙を見つけ出したのか、条件反射のようにユーリッドに抱きつく。

 次の瞬間、彼の口からは生き物が押し潰されたようだ声が漏れた。

「やはり、可愛いです」

「離せ!」

「マスターは、わたくしにとって……」

「……フリム、離すんだ」

 刹那、研いだ切っ先のように鋭い低音の声音が響く。

 その声音にフリムカーシの身体は震え、反射的に腕を離してしまう。

 そして一歩二歩と後退りすると、怯えた表情を見せる。そのようなフリムカーシを他所に、ユーリッドは無表情のまま乱れた服を丁寧に直していく。