しかし彼女は人間ではなく、着物の裾から覗く狐の尾が彼女の正体を教えてくれる。黄金色の毛並みを持つ三本の尾。
それはゆらゆらと不規則な動きを見せ、まるでユーリッドに甘えているかのようだ。
「連絡してもいいと思うけど」
「わたくしだって、忙しいですので」
尻尾と同色の髪の毛から覗く、獣の耳が傾く。
ユーリッドの言葉にショックを受け落ち込んでしまったのか、彼女は切ない表情を作る。
その表情にユーリッドは罪悪感が生まれたのか、仕方ないという雰囲気で彼女に詫びの言葉を返す。
しかし瞬時に、それが甘かったと後悔する。
刹那、相手がユーリッドに抱きついてきたのだ。
突然の行動に、避けるタイミングを失いなすがまま。呻き声を上げ離して欲しいと訴えるが、相手は聞き入れてはくれない。
それどころか抱き締める腕に力を込め、何を思ったのか彼の頭に自身の顔を摺り寄せはじめた。
「フリム……く、苦しい」
「ああ、すみません」
酸欠の影響で顔が染まりかけているので、慌てて開放する。
一方開放されたユーリッドは胸元を押さえつつ、懸命に新鮮な空気を吸い込む。
馬鹿力――そう思える力に対し、無意識に距離を取った。
「殺す気か!」
「申し訳ありません。わたくし、可愛いものを見るとつい。特にマスターは、愛しいですわ」
「だからといって……」
「マスターは、特別ですので」
熱く語り続ける彼女の名前は、フリムカーシ。
このように見えて暦とした精霊であり、秋を司る精霊だ。四季を司る精霊は最高位の精霊として崇められ、白き竜の側に仕える唯一の存在。
そのような偉大な精霊が、何故ユーリッドの側にいるのか。それには、彼女の性格が深く関係している。
彼女は、可愛いものにはとことん目がない。
特に気に入った相手や好意を抱いた相手はとことん付き纏い、抱擁してくるのだからユーリッドは生きた心地がしない。
「加減というものを考えてほしいよ」
「努力はします。でも……」
言葉ではそのように言っているが、表情は異なっていた。
ユーリッドに向ける視線は先程以上に熱を帯び、彼が隙を見せたら再び抱き付いてくる勢いがあった。
流石に二回目の抱き付きは迷惑なので、ユーリッドは彼女に隙を見せてはいけないと神経を集中することにする。


