彼女の慌てふためく声音に、ユーリッドは肩を竦めていた。
しかし今までエリックだけを恐れていたが、それにエリザが含まれるとは――周囲に面白い人物が集まるものだと、嘆きの言葉しか出ない。
自分に降り掛かる不幸を嘆くと、ユーリッドはエリザが立ち去った方向と逆に向かう。
そう、彼は食堂が何処にあるのか知らない。
昨日はエリザが直接部屋まで持ってきてくれたので、食堂に行っていない。つまり「朝食の用意を」と言われても、ユーリッドだけでは辿り着けない。
エリザは、そのことに気付いていない。
修道院は家に等しい場所なので「言わなくてもわかる」という先入観があったのだろう、部外者であるユーリッドは何処に何があるのかわからない。
それに見た目以上に広い修道院。方向音痴の人間であったら、確実に迷っている。
「やっぱり天然だ」
彼の言葉が示すように、凄まじい音と女性の怒鳴り声が建物中に響き渡る。
それを追うかたちで聞こえてきたのは、エリザの弁解の言葉。どうやら再びトラブルを起こしたらしく、周囲が慌しくなる。
「本当に、楽しい人だ」
そう呟いた後、ユーリッドは自身が使用している部屋の前に行き徐に扉を開く。
刹那、部屋の中から何かの気配を感じ取ったのか、ユーリッドは室内に鋭い視線を向け気配の主を捜す。
「来ていたんだ」
室内にいたのは、相手は見知っている人物。
ユーリッドは扉を閉めると同時に緊張感を緩めると、彼は感情が篭っていない淡々とした声音を相手にぶつけ自分を訪ねてきた理由を聞く。
「お顔を拝見に」
相手は、ユーリッドに媚を売るかのような声音を出す。
しかし彼は相手の本心を見抜いているので、態とらしく肩を竦める。
そして彼女に視線を合わせつつ無言のまま部屋の中心へ向かうと、彼女が言っていることが本当に正しいのかどうか再度訪ねてきた理由を問う。
「信じておられないようで」
「唐突すぎるからね」
「酷いですわ」
「突然訪ねる方が酷い」
彼女の行動のひとつひとつが、妖艶そのもの。
特に色鮮やかな色彩を使った遥か東にある小さな国で着られている「着物」という名前の服を着崩した姿は、何とも色っぽい。
また露出している肩はシミひとつない美肌で、更にちらりと覗く豊満の胸は男を一瞬にして取り込む魔力を兼ね備えていた。


