心霊現象が囁かれている場所を一瞥すると、ユーリッドも立ち去る。
それにいつまでも同じ場所にいたら、先程の男のように煩く言われる可能性が高い。
また情報が少ない今、何もわからなかった。
◇◆◇◆◇◆
修道院に戻るとユーリッドは、温泉へ向かうことにした。
しかし思った以上に時間が経過していたらしく、運悪くエリザに見付かってしまう。
そしてエリザはユーリッドを懸命に捜していたのだろう、出会った瞬間不機嫌な表情を浮かべ愚痴と不満が混じった言葉を発する。
「何処へ行かれたのですか?」
「えーっと……その……街へ」
「そうでしたら、そのように言って下さい。折角、朝食を用意して待っていたというのに……」
やはり、ユーリッドの考えは正しかった。
エリザは朝食の用意を終えた後彼の部屋を訪れていたのだが、肝心のユーリッドの姿は何処にもなかった。
行方不明の相手にエリザは心配になり今まで至る場所を捜し回っていたらしいが、彼は内心「仕事は?」と、心配する。
「散歩だよ」
「朝食は、まだですね」
彼女の言葉に、身体が硬直する。
流石にこれ以上食べることはできないが、エリザはユーリッドの表情から「朝食を食べる」と勘違いしたらしく、彼を連れ朝食の用意をしてある食堂へ向かう。
「食事の心配をするより、やることがあると思うけど。其方の方が、大切だよ。賛美かはいいのかな?」
「あっ! そうでした」
「それなら、早く準備をしないといけない。僕は、勝手に食べているから心配しなくていいよ」
「そうですか? それでしたら……」
彼の指摘にエリザは一礼し、満面の笑みを浮かべる。
その純粋無垢に近い笑顔に、ユーリッドは苦笑するしかできない。
これこそ天然の恐ろしさというべきか、エリックといい勝負であった。
エリザは廊下を走り、賛美歌が行なわれる礼拝堂へ急ぐ。
その途中、彼女は「はしたない」という言葉と共に、仲間の修道女から厳しく注意を受けてしまう。
その指摘にエリザは甲高い声音で返事を返すと、言葉に従うかたちでゆっくりとした足取りで廊下を歩き出す。


