「火事ですか?」
ユーリッドの指摘に、男の表情が微かに反応を示す。
その反応にこの答えが正解と見抜くと、ユーリッドは相手に対して質問を続け、どうしてこの場所がこうなってしまったのか探る。
「火事が発生し、多くの死者を出したいわくつきの場所。此処は、そんなところでしょうか?」
「君は、鋭いね」
「そうでもないです。この状況を見れば、誰もがそう思うでしょう。雨風でやられたにしては、違和感が多いです」
ユーリッドの鋭い読みに観念したのか、男が口を開く。
彼の予想通り、この現場で火事が発生していた。
しかしそれは数十年前の出来事らしく、男も詳しいことは知らないという。
だが、この街にはひとつの信じがたい噂が存在する。
それは、この場所を一人で通ると悲しげな声が聞こえるというも。
実しやかに語られる心霊現象にユーリッドは、驚きつつも笑っていた。
「冗談ですね」
「冗談ではない。何人もの人間が、その声を聞いている。それも昼夜問わず、聞こえるようだ」
「信じ難いです」
心霊現象と呼ばれている不可解な現象が、昼夜関係なく起こるのは考え難い。
だからといって男が嘘を言っているようにも思えず、それにユーリッドを呼ぶ声が聞こえたのも確かだ。
「信じていないようだね」
「この街で心霊現象が起こるとは、信じられません。精霊を祀っている、礼拝堂が存在します」
「普通だったら、そう思うだろう。しかし、現に多くの者が聞いている。一人二人であったら空耳で片付けられるが、現に私も聞いたことがある。そういう訳だから、二度と立ち入ってはいけない。特に、聖職者に見つかったら煩い。あの者達は、この場所を気に掛けている」
立ち去る直後に男が発した言葉に、ユーリッドの眉が動く。
「聖職者」その言葉の裏に隠された、本当の意味とはいかなるものか。
その真相を聞こうとしたが、男はすでに立ち去った後であった。
このことに関しては彼等が専門家だが、心霊現象程度で厳しく取り締まるのは大袈裟すぎる。
それなら、何か表に出すことができない理由があるというのが正しい考え方。どちらにせよ、考えれば考えるほど謎が深まり、頭が混乱していく。
それに先程の謎の声は、彼にとっては妙に懐かしかった。


