この場所は背丈より高い草が生い茂り、建物が存在していた跡が残っていた。
目に付くのは太い柱の痕跡だけで、他の物は全て崩れてしまっている。ユーリッドは何気なく脚を止めると、その光景を眺める。
その時、誰かの声音が響いた。
突然のことに身体が微かに反応を示し周囲を見回すが、それらしき人物は何処にもない。
これは、空耳か――いや、ハッキリとユーリッドの耳に届いていた。
その声音に導かれるように、草を掻き分け中に入っていく。
すると、規則正しく敷き詰められた石のようなものを発見する。
これは建物の床だろうか、長年の雨風に耐えた跡が残っている。
点在する石の位置からして、ある程度は予想することができた。
これは、中流階級の家庭が暮らす邸宅だったのだろう。
しかしどうしてこうなってしまったのかは、原因が掴めない。
何か他の物が発見できるのではないかと探し回ると、小物のような物が落ちていることに気付く。
ユーリッドは落ちている物を拾い上げると、手に取った謎の黒い物体の正体を探る。
それは、泥に汚れていたペンだった。それ以外にも様々な物体が、いくつも転がっている。
それら全て黒く変色しており、劫火によって炙られたのか「火事」という単語を連想させる。
その考えに、ユーリッドは再び周囲に視線を走らせる。本当に火事が起こった現場だとしたら、後始末をされていてもいいものだ。
しかし、それらが行なわれた形跡は全くない。
まるで「触れてはいけない」という雰囲気が醸し出されている現場に、彼は疑惑の念を抱く。
刹那、凛とした男の声音が響く。
ユーリッドは反射的に怒鳴り声に似た声音を発した者がいる方向に視線を向けると、四十台後半の中年の男の存在に気付く。
どうやら勝手にこの場所に立ち入ったことを怒っているらしく、ユーリッドは慌ててこの場から立ち去ることにする。
「すみません」
「立ち入り禁止の場所で、一体何をしている。場合によっては、それ相応の場所に連れて行かないといけない」
「そんなに大事な場所なのですか?」
「それは知らん。だが、決まりだ」
「では、やはり何か――」
本来、その場所やその一体を立ち入り禁止にする場合、それなりの明確な理由があって行うもの。
ユーリッドは立ち入り禁止付いて尋ねるが、男はそのことについて話そうとはしない。
また不都合なことがあるのか言葉を詰まらし、徐々にであったが顔色が悪くなっていく。


