朝の澄んだ空気の中に、美しい笛の音色が混じる。
その音色によって目覚めたユーリッドは寝台から身体を起こし観音開きの窓を開くと、清々しい朝の陽気と共に爽やかな音色の音量が増す。
響き渡る音色に耳を傾けつつ、今日一日の計画を練る。
昨日のエリザの件もあるので、遠くに行くことはできない。
それなら身近にある温泉に浸かっているのもいいだろと、結論を出す。
ふと、香ばしいパンの匂いが彼の鼻腔を擽る。
ユーリッドは窓から乗り出し周囲に視線を走らせると、近くの建物の煙突から白い煙が立ち上っていることに気付く。
しかしその煙はひとつだけではなく街全体に視線を移せば、多くの煙突から同じように煙が立ち昇っていた。
どの家々も朝食の準備を行っているのだろう、そのようなことを考えていると自分はどのように朝食にありつけばいいのか迷うが、流石に修道院側に迷惑を掛けるわけにはいかないので外食が一番いい。
ユーリッドは手早く身支度を整えると、扉を開き廊下に視線を走らせる。
エリザに頼めば一番いいのだが、彼女は今日色々と忙しいので何かを頼むわけにはいかない。
またこれ以上修道院側に貸しを作りたくないという気持ちがないわけでもないので、彼等の協力を拒む。
(誰もいない……よし)
廊下に出ると、静かに扉を閉める。そして忍び足で建物の外へ出ると、振り返り誰にも気付かれていないことを確認する。
幸い、誰にも気付かれていない。
そのことに安堵の表情を作ると、街へ急いだ。
◇◆◇◆◇◆
街の中心部に向かうにつれ、笛の音色が大きくなっていく。
早朝だというのに中心部は多くの人で溢れ祭りの開始を今か今かと待っており、ユーリッドは彼等を上手く避けつつ食べ物屋を探す。
中心部を適当に歩いていると、食べ物を売っている一軒の露店を発見する。
周囲に建ち並ぶ露店は開店前であったが、この店は祭りの当日ということもあり早く店を開いたらしく周囲には多くの客で溢れていた。
また、焼きたての肉の香ばしい香りが漂い食欲を刺激する。
ユーリッドは店の人にお金を払い、品物を受け取る。
受け取ったそれはクレープに似た食べ物で、焦げ目をつけた鶏肉とレタスが小麦粉を水で溶き薄く焼いた生地によって巻かれていた。
そこには香辛料が効いたピリ辛のソースがかけられ、香りを嗅いだだけで腹の虫が鳴り出す。