「忘れていました」
その者は、先程の修道女であった。駆け足で戻って来たのか、肩を上下させながら呼吸を繰り返している。
彼女は深呼吸を繰り返し呼吸を整えると、明日の詳しい予定を話していく。
「態々、有難うございます」
「では、失礼します」
その言葉を残し扉が閉められると、足音は徐々に遠ざかっていく。
流石に三度目は無いと願いたいが、世の中には「二度あることは三度ある」という言葉が存在しているので、油断できなかった。
案の定ユーリッドがザックに四角い物体を仕舞い寝台に横になろうとした時、部屋の扉が開かれた。
訪れたのはやはり先程の修道女で、彼女は少し開いた扉から顔を覗かせていた。
「お、お食事……まだでしたね」
「そう……だね」
「それでは、お持ちいたします。修道院ですので、その……豪勢な食事は用意できませんが」
用事が済めば立ち去るというのが、彼女の性格らしい。
しかし同じことが何度も続いてはゆっくりと休めないので、ユーリッドは扉を閉める寸前で彼女の行動を制すると「他に何か言いたいことがあったら今言って欲しい」と言い、全ての用事を一回で済ませようとする。
「他には……そうですね、お名前を聞いていいですか? まだ、お聞きしていないと思いまして」
「僕の名前は、ユーリッド」
「私は、エリザと申します」
「宜しく、シスター」
ユーリッドが無意識に発した“シスター”という言葉に、エリザと名乗った少女の表情に暗い影が覆う。
どうやらそのように呼ばれるのが苦手のようで、エリザはいい返事を返してこない。
「シスターではいけませんか?」
「周囲から“修道女に似合わない”と、言われていまして……ですので、名前で呼んでほしいです」
その納得できる説明に、ユーリッドは苦笑いをしていた。
彼女はどちらかといえば自由に生きている街娘の雰囲気が強く、規律が厳しい空間で暮らしているとは思えないほど自由奔放な一面が感じられた。
また天然要素が強い性格ではさぞかし苦労しているのではないかと同情するが、彼女のプライド等を考慮してこれについては言葉に出すことはしなかった。


