「本当に、有難うございます」
「今後は、このようなことがないよう気を付けなさい。今回の件は、私が報告しておきます」
「はい」
「彼女のことを報告するのですか?」
「勿論です」
「僕は気にしていませんので、報告はしないで下さい。大事になりますと、気が引けますので」
気にしていないといったら嘘になってしまうが、上の人物に報告するとなったら話は別だ。
それに重い荷物を運んで痛めた腰は有名な温泉で静養すれば特に問題ないと言い、ユーリッドは許しを懇願する。
「そのように仰るのでしたら、今回は私の胸に収めておきます。貴女はきちんとお礼を言っておくのですよ」
「はい!」
「それでは、本当に有難うございます。私は仕事が残っていますので、これで失礼いたします」
荷物を置く場所まで案内してくれた修道女は軽く頭を垂れると、建物の中に姿を消す。
一方、取り残されたユーリッドはどのように会話を切り出していいのかわからないので、互いの間に沈黙が走る。
すると先に会話を切り出してきたのは、ユーリッドと共に重い荷物を運んだ修道女。
彼女は荷物の件と助けてもらったことに対し丁寧に礼を言うと、彼に温泉に入ることを勧めてくる。
「それはいいですね」
「では、ご案内します。あっ! タオルをお持ちではないようですので、此方で用意しますのでお待ちください」
そう言い残すと、ユーリッドを置いて再び何処かへ行ってしまう。
今回は流石に置いていかれる心配はないが、彼女の性格を考えると不安が付き纏いちょっと天然部分が危険だった。
その時、食堂に荷物を置いてきてしまったことを思い出す。
相手は客商売をしているので客の荷物を勝手に処分するとは考え難いので後で取りに行けばいいが、荷物の中には大切な物が入っているので金銭以上に中身を見られたのかどうか、其方の方が心配になってくる。
もし金銭を失っていたら、何処かで日雇いの仕事をすればいいが“あれ”を失った場合、大事に発展してしまうので、早く取りに行った方がいい。
しかし、彼女が帰ってくるのを待たないといけない。
どうすればいいか悩んでいると、タイミング良く彼女がタオルを両手で抱え戻って来る。


