「ご、御免」
「そのようなことで争うな。我等は、同士であるぞ。それを忘れることは、絶対にあってはならない」
年長者の台詞に、全員が一斉に頷く。
無論、咳き込んだ人物も埃を掃った人物も同じように頷く。
この場所に集まっている目的はただひとつで、それを明るみにするまで争い事はご法度といっていい。
少しの亀裂はやがて大きくなり、分裂の原因になってしまうからだ。
「この本は?」
「年代的に、古いものですね」
「これは、約千年前に書かれた物だ」
「それは、真ですか」
「本当に残っていたとは……」
「なんという幸運」
明かされた本の正体に、周囲に驚きと共に動揺が走った。
千年前と言えば、世界が一度滅んだとされている時代。
その当時に書かれた物が残っているというのは、奇跡に近い。まさに精霊の導きというべきか。
円卓を囲む者達は、各々その土地に伝わる祈りのスタイルを取り感謝する。
「汝の導きに感謝します」
全員の言葉が重なる。この本は精霊に祈りを捧げるほど重要な物であり、今まで信じられてきた内容を根底から覆すかもしれない事実が書かれている可能性が高い代物。
それが関係してか、誰もその本を開こうとはしない。
互いの顔を見合し、誰かが行動を起こすのを待つ。
知識を得ることが、これ程まで――
学者として多くの知識を貪欲に吸収してきたというのに、この本に書かれている内容を知ることだけは躊躇いを覚える。
それを知った瞬間、この世という時代に背を向けることになり存在自体を危うくしてしまう。
それだけのことが書かれているかもしれない本に、皆が息を呑む。
頁を捲らなくともこの場にいる者なら誰もがそのことを理解しており、その結末さえも容易に言葉に表すことが可能だった。
だから誰一人として、率先して本を捲ろうとはしない。
我々は、神殿を敵に回した。
それが、正しい答え。
神殿という場所は聖職者と呼ばれている者達が集まる場所で、過去現代そして未来永劫正しき教えを伝えていくいわば信仰の要。
この土地の全ての人々が崇めている〈精霊信仰〉の基礎であり、普遍といえる存在。
その勢力は強大で、高位の聖職者は絶大な権力を有する。


