「置いていかないでほしいよ」
そう嘆いたところで、相手は完全に姿を消してしまった。
それなら修道院の敷地に到着したら誰かに声を掛け荷物を置く場所を聞き出せばいいと考えるも、思った以上に道程は険しかった。
「ご苦労様です」
その言葉と同時に、重い荷物が降ろされた。
荷物が床に置かれた瞬間に響いた鈍い音は運んできた物の重量を教え、ユーリッドは背中を反らすと拳で痛む腰を叩き盛大な溜息を付く。
「貴女に出会えて、本当に良かったです」
「本当にすみません。あの子ったら、何を考えているのでしょう。手伝ってもらった方を置いていくなんて」
「い、いえ。気にしていませんから」
苦笑いを浮かべつつ否定の言葉を発するが、ユーリッドの内心は複雑だった。
それに誰かに出会っていなければ、体力の限界を向かえていただろう。
だから、腹立たしい感情がないと言ったら嘘になる。
「本当に、何処に行ってしまったのかしら」
「途中まで、一緒でした」
「落ち着きが、足りないのよね」
彼が荷物を置いた場所は、修道院の勝手口。其処には大量の食材が入った袋が山積みされており、その中には見覚えのある袋も含まれていた。
それから察するところ、彼女は一度この場所を訪れ荷物を置いたことになる。
しかし、彼女の姿は何処にも見当たらなかった。
ユーリッドを勝手口まで案内してくれたのは、三十代前半の修道女。
彼女は調理場の担当らしく、一目でユーリッドが運んでいる荷物の役割を認識してくれたので倒れずに済んだ。
「あら、噂をすれば……この方から全ての事情を聞きました。貴女は此方の方を置いて、自分だけ先に来たというじゃない。この方に手伝ってもらっておきながら、案内を忘れて……」
「す、すみませんでした。てっきり、付いてきていると思っていましたので……ですから……」
深々と頭を下げて謝る姿からは、悪気という言葉は感じられない。
寧ろ、彼女の特徴というべき「鈍感」な性格が招いたもの。
最初は身勝手な行動に苛立ちを覚えていたが、悪気がなく必死に謝ってくる姿を見ていると、苛立ちが徐々に薄れ彼女を責める気にはなれなかった。


