信者からの寄付金があるというが、訪れる人数と寄付金のバランスが一定とは限らない。
ユーリッドは敢えて尋ねることはしないが、この食料に関しても修道院の厳しさを物語っていた。
自分達が生活する分にはいいだろう。
しかし他者を外部から招いた場合、どうしても無理が生じてしまう。先程のやり取りを見ていると、持ちつ持たれつという関係といっていいと想像する。
「僕も……祭りを見に来たんです」
言葉は途切れ途切れになってしまうが、どうにかして会話を続けようと試みる。
身体に掛かる重圧を会話によって誤魔化していかなければ、一定の歩幅で歩いていくことができない。
「そうでしたか。この街の祭りは、楽しいです。礼拝堂で賛美歌を歌いますので、良かったら来てください」
「……そうします」
ふと、司教の顔が脳裏を横切る。
しかしあの時はエリックと一緒だったので、一人で訪ねた場合は大丈夫と期待したい。
それにエリックという吟遊詩人には二度と会いたくないのだが、相手は神出鬼没の一般常識が通じない人物なので街で鉢合わせをした時の対策を練らないといけない。
「顔色が悪いですが、やはり重いですか?」
「だ、大丈夫」
流石に何度も偶然が重なることがないと思いたいが、いかんせん相手に一般常識は通用しない。
ユーリッドは反射的に周囲に視線を走らせエリックがいないかどうか確認するが、幸い例の迷惑者はいなかった。
「宜しかったら、温泉に入っていきませんか?」
「あれは、確か……」
「私からのお礼です。ですので、気になさらないで下さい。他の者達も、何も言わないでしょう」
「では、お言葉に甘え……」
「それでしたら、急ぎましょう」
善は急げとばかりに、修道女は歩く速度を速めていく。
しかしユーリッドは歩く速度を速めることはできず、心の中で「待って欲しい」と願うが、互いの距離が離れていくばかり。
このまま置いていかれたら広い敷地の修道院、何処に荷物を置いていいのかわからない。
懸命に修道女を呼び止めようとするが、全身に掛かる重量によって大声を出すことはできない。
自分より軽い荷物を持っているとはいえ、相手は歩く速度は異様に速い。
その結果、数分のうちに修道女の姿が見えなくなってしまい完全に置いてきぼり状態になってしまう。


