風の放浪者


 しかしその瞬間、下半身が床に沈んでしまいその腰を痛めそうな重量に思わず顔が歪んでしまう。

 それでも荷物を床に落とさないように懸命に耐えているのは、ユーリッドの根性の賜物といっていい。

「ご、ごめんなさい」

 苦しそうな表情を浮かべているユーリッドに、修道女は頭を下げ謝ってくる。

 その態度に「いいよ」と返事を返すが余裕があるわけではなく、もし後ろから押されたら前のめりで倒れそうだった。

「本当に、有難うございます。あ、あの……その……また何かありましたら、宜しくお願いします」

「わかっているわ。じゃあ、頑張っていってらっしゃい。貴方も頑張って修道院まで荷物を運ぶのよ」

 女主人の言葉に顔を引き攣らせながら、ユーリッドは店を後にする。

 それに続くように修道女が出て行った瞬間、にこやかに笑っていた女主人の表情が一変した。どうやら誰も名乗り出なかったことに腹を立てたらしく、二人が店から出て行った直後大気が震える大声が響き渡った。


◇◆◇◆◇◆


「大丈夫ですか?」

 口を真一文字に結び懸命に重量と戦っているユーリッドを心配そうに見詰める修道女であったが、そのように言う本人も大量の小麦粉が詰め込まれた袋を左右の手で持ち大変だった。

「……平気です」

「本当は、誰かと一緒に来ればよかったのですが、この時期は忙しくて……本当に、すみません」

「お祭り……ですね」

「はい。収穫祭です。精霊への感謝の祭りでもあります。ですので、他の方々は忙しく……」

 彼女の説明に、この荷物の意味を知る。祭りが行われれば、必然的に多くの観光客と信者が集まってくる。

 また人が一箇所に集まれば必然的に温泉に入る人も増加するもので、修道院は湯治場の役割も果たしているのでこれらは温泉を利用する人達へ出される料理の食料になる。

 修道院が運営しているというところから施設利用料は無料だと思われるが、多少の料金が発生するという。

 このようなことを表立って言えるものではないが経営は厳しく、慈善事業で行っているほど裕福ではない。

 だから修道院でなければそれなりの金額を取っていると、修道女は話す。