「少し、静かにしてくれませんか」
その時、彼等と同じ長椅子に腰下ろしていた中年の女性から注意を受けてしまう。
最初は音量に気を付けていたが、喋っているうちに互いの声音が大きくなってしまったのだろう二人は中年の女性にすまないという気持ちを込め頭を下げると静かに司教の話に耳を傾ける。
(まったく、どういう人物なんだ)
エリックは物事を理解している素振りを見せたと思えば、そうではない一面を見せる。
二面性を上手く使い分けているのか、それともこれが正しい彼の性格か。
エリックの行動にユーリッドは頭痛を覚えた。
それ以上に癪に障るのは「自分は信仰心が篤い」というアピールをしている司教。
しかし、大袈裟な行動は時として襤褸を出す。
現に、目の前で話す司教は真実を語ってはいない。
竜は三匹だよ。
エリックは、そう言っていた。そして司教は“三匹”と言っているが、そのあたりは上手くはぐらかしている。
つまり、何も知らない。
いや、知っていながら真実を隠しているといっていい。
「……愚か者」
誰の耳にも届かないようユーリッドは微かな声音で囁くが、エリックの耳にだけは届いていた。
彼の言葉に訝しげな表情を暫く浮かべると、何を思ったのか瞬時に柔和な表情に変わった。
何を思ったのか力任せにユーリッドの肩を何度も叩くと、馬鹿笑いをはじめる。
無論、話の邪魔をされた司教の怒鳴り声が礼拝堂中に響いたのは言うまでもない。
結果、神聖な話を二回も話を中断させた罪ということで、ユーリッドはエリックと一緒に礼拝堂から締め出されてしまう。
「いやー、参ったね」
「誰が悪いのですか」
「まあ、いいじゃないか」
「僕は困ります」
「あんな退屈な話を最後まで聞いていたら、眠くなるだけだよ。それに、腹も空いたことだし」
「関係ないです」
「つれないね」
ユーリッドの冷たい態度にエリックは態とらしく肩を竦めて見せると、軽い口調で気にしてはいけないと言う。
その憎たらしいまでのふてぶてしい態度にユーリッドの怒りは頂点に達し、何かが切れる音が響く。
そしてユーリッドはエリックに詰め寄ると、物凄い形相で睨み付けた。


