「どうしたのかね?」
「い、いえ。何でもありません」
「そうか。なら、座りなさい」
司教の言葉にユーリッドは軽く頭を垂れると、極力音をたてないようにして椅子に腰を下ろす。
このような形で大事な話を中断させられたことに司教は不機嫌な表情を浮かべていたが、咳払いし冷静な一面を取り戻すと中断してしまった話の続きを朗々とした口調で語っていく。
語りを再会した司教の話に耳を傾けつつ、ユーリッドは視線だけをエリックがいる方向に向ける。
やはり、理解し難い男というべきか。
何を考えているのか、心の中が読めなかった。
「変な意味で、言ったんじゃない」
「同性に対して、好きとか言わないでください。貴方の言い方は、相手に勘違いさせてしまう」
「可愛いものは、愛すべき存在だよ」
勿論、彼の言葉は同性に言っていいものではない。
ユーリッドの背中に冷たいものが流れ落ち、身の危険を覚える。
同時に悪寒による身震いを覚え、この場から逃げ出したい衝動に駆られる。
「冗談だよ」
「悪い冗談です」
「気にしない気にしない」
「無理です」
「じゃあ、食事を奢るから許してくれないか」
食べ物を奢ってくれるという誘惑に乗ってしまいそうだが、エリックと一緒に食事というのは精神面に悪い。
それに彼は常識を逸脱しあの殺傷能力を持つ歌を有するので、身の安全を図るのなら断るのが一番。
ユーリッドは自分の意思を伝えようと口を開くが、エリックの言葉が邪魔をする。
「考えているということは、いいってことだね」
「い、いえ……そ、それは」
「じゃあ、決定」
相手の意見を聞く前に、エリックは勝手に決めてしまう。
その楽観的な思考に、ユーリッドは心の中で泣いた。
そしてこの場所が神聖な礼拝堂でなければ、大声で否定していただろう。
エリックの身勝手な行動と発言の数々に、ユーリッドの反撃の気力が徐々に削がれていくことに気付く。
歌は下手でも話術に関してはそれなりの才能を持ち合わせているのだろう、完全にエリックのペースに嵌ってしまいどのように足掻いても抜け出せない状況にあった。


