「ユー君は、精霊を信仰しているのかな?」
ふと、エリックがそのように小声で尋ねてくる。
裏が見え隠れする彼の言い方にユーリッドは眉を顰めが、瞬時に心の中で「愚問だ」と呟き、何故そのように尋ねるのか逆に聞き返す。
誰もが精霊を信仰しており、寧ろいない人物は存在しないといっていい。
今更、何を言っているのかと、ユーリッドは彼の言葉を鼻で笑う。
しかし、次にエリックが発した言葉に息を呑む。
「竜は、三匹だよ」
「何故、そう……」
「私の職業は、吟遊詩人だよ。世界各地を自由に回り、その土地に伝わっている話を聞き、自分なりに導き出した答え。聖職者達が言っていることより、信憑性が高いと思ってほしい」
得意気に語るエリックに、ユーリッドは言葉を失う。
当初“面白い吟遊詩人”と嘲笑っていたが、この発言により食えない人物と認識を改める。
人は見かけによらず。
エリックはそれに当て嵌まった。
「その吟遊詩人殿は、司教様の話をどう思っているのでしょうか? ご意見を聞きたいです」
「半分は嘘で、半分は本当だ」
「根拠は?」
「聖職者って生き物は、信仰を広めてナンボの職種。時には、都合よく脚色するだろう。私の見解が聞きたかったら、今夜酒場で待っているよ。今日は喉の調子がいいから、美声を聞かせてあげるから」
前半は真面目に話していたが、やはり後半部分は“エリック”という人物の地が表面に出てくる。それに自分自身で“美声”と褒め称えるのも聊か問題が多いものとユーリッドは嘆息する。
人を不愉快にする歌声を持っていなければ、彼の歌を聞きに酒場を訪れ歌声に耳を傾けていい。
しかしあれは高い殺傷能力を有し、人体に多大なる影響を齎す。
また、下手したら死亡する恐ろしい歌だ。
「口答でお願いします」
「歌も同じだと思うけどね」
「種類が違います」
「つれないなー。君のこと好きだよ」
突然の発言にユーリッドは立ち上がり、エリックの顔を凝視する。
同時に“カツン”という床を叩いたような乾いた音が礼拝堂の中に響き渡り、司教の話が止まった。
そして人々の視線がユーリッドに集まり、口では何も言っていないが視線で邪魔をしたことを責める。


