司教が語る内容は天地創造で、神話の一説。
この地で生きている者なら誰もが知っており、幼い子供でも内容を理解し語り部として話せる。
無論、隣に座るエリックでさえも――
この世界は、無の中から形成された。
物語の最初の一文は、この言葉からはじまる。
無を祓い、世界を形成したのは竜という存在。
それに続く文章は、竜が存在していたというもの。
人間にとって竜は、世界を創った創造主といっていい。動物も鳥達も植物も――皆、竜が創り出したいわば兄弟のような関係である。
しかし、人間以外の生き物がそれを受け入れるかどうかは不明とユーリッドは考える。
「我等が存在も、その時に誕生した」
その台詞の後に司教は、恭しい態度で自分達を生み出してくれた尊き存在――創造主に祈りの言葉を捧げた。
竜は、あらゆる生き物の生み出した尊い存在。
それ故に竜の存在は人間の間では神聖かつ神秘的な存在となっているが、正式な記録が残されていないのが現状。
「世界のバランスを保つ精霊も、あの方のお創りになった存在。だから、あの方に感謝しないといけない」
精霊はこの世界を支えている。
風も水も大地も、全て精霊の加護によって成り立っているといっていい。その精霊を生み出したのも、彼等である。
彼等――そう、竜という存在は三匹いた。
その者達が個々に力を出し合い、世界を誕生させる。
住みよい大地になるようにと――
「世界を作り終えた後、それぞれの役割を決めました」
一匹は太陽に化身し、昼という世界を支配した。
またもう一匹は月に化身し、夜の世界に輝いたという。
そして最後の一匹は、この大地を見守るという役目に就き、後に精霊達を束ねた。
浪々と語る司教を横目にユーリッドは徐に天を仰ぐと、差し込む陽光によって美しく輝くステンドグラスが視界に映り込む。
その絵は、司教が語っている神話を表したものだった。
大地に残った竜は、白い姿をしていたという。三匹の中で一番美しいとされているが、正確な記録が残っていない。
その為、聖職者の間でも「竜は二匹」と言われ、長年論争が続く。
(さて、真実はどちらか……)
司教も、明確な答えを述べようとはしない。これについての答えが割れているということで、公に話せないでいるのが現状のようだ。
しかし、精霊を束ねている者は確かに実在する。
語られる白き竜――そう、その者は精霊王と呼ばれ多くの精霊から敬愛を受けていた。


