「そこの貴方も、話を聞いていくがいい」
その場に立ち尽くしているユーリッドに、身分の高い聖職者――司教が、そう声を掛けてくる。
その言葉に空いている席がないかと探していくが、どこも満席状態。
ふと、脳味噌を刺激する声音が彼の耳に届く。
その不快な声音に、全身に鳥肌が立つ。そしてこれ以上ないというほどの不快な表情を浮かべながら振り向くと、相手を睨み付けた。
彼の視界に映り込んだのは関わりたくない人物代表のエリックで、著しく気分を害したのかユーリッドは顔を引き攣らせ相手を威圧する。
「其処に立っていたら、司教様の話がはじまらないよ」
のほほんっとした口調は、聞いている者の神経を逆撫でする。
ユーリッドはこのまま逃げ出したい衝動に駆られるが流石に現在の状況で逃げ出すのはいけないと判断したのか、渋々彼の側へ行く。
「捕まったと、思いましたが」
椅子に腰を下ろすと同時に、厳しい言葉を発する。
確かの自身の目で数人の男に引き摺られて行く姿をハッキリと目撃したというのに、どうしてエリックが礼拝堂にいるのか――ユーリッドの疑問にエリックは苦笑すると、自分の素晴らしい歌が関係していると説明する。
「感動のあまり気絶した」
(ああ、やっぱり)
あの歌を聞いて正常な感覚を保てる人間など、この世界に存在しない。
エリックは気絶したと言っているが、本当のところは失神と表現した方が正しい。
それに捕まえた相手が史上最低の音痴とは普通は思わないので、相手も油断してしまったのだろう。
結果、彼等は失神を起こす。
これ以上の犠牲者が増えないことを願うが、エリックはどのような場所であっても力いっぱい魂を込めて歌う。
多分、この場所が神聖な礼拝堂でなければ思う存分歌っていただろう。
その歌は多くの犠牲者を生み、下手したら命を奪う。
まさに、悪魔が乗り移った歌声と呼べる代物だ。
「これは、精霊の導きかな?」
「そうかもしれませんね」
「あれ? 嬉しくないの」
「どうでしょうか」
「えー、俺は嬉しいよ」
歌声の殺傷能力を知って貰う為に「最悪」と言った方がいいが、状況が状況なので汚い言葉で罵るわけにはいかない。
それならエリックと視線を合わせなければいいと、ユーリッドは横を向きつれない態度を取る。
冷たくされたことにエリックは縋り付こうとするが、司教の声音が彼の動作を止めた。


