小川で遊んでいる子供達がユーリッドに気付くと両腕を上げ、挨拶するかのように此方に向かって手を振ってくる。
それに応えるようにユーリッドは手を振り返すと、子供達の笑い声が響いた。
(元気がいいな)
子供が無邪気に遊べるのは、街が平和という証拠といっていい。
そのことに修道院が大きく関係しているという意見を耳にするが、ユーリッドの意見としては別の要因が関係していると考える。
この土地は他の土地に比べ精霊の力が強いので、その加護が影響しているといっていい。
『源泉地を大切に』
その強い思いが働いてか、ベルクレリアは過去一度として侵略に遭ってはいないので建ち並ぶ建物の大半が街が造られた当時に建設されたもので、古めかしい印象を人々に与える。
暫しの休憩を終えたユーリッドは、行き交う人々の流れに沿って歩みを進める。
彼が目的としている修道院はすぐ目の前で、休憩していた橋を渡れば修道院の敷地内に入ることができる。
其処は街に漂う雰囲気とは大きく異なり、厳粛に包まれた空間を作り出していた。
修道院の敷地に入った途端、流れは二つに別れた。温泉を利用する者は石を削って造った階段を登り、修道院の奥へ向かう。
礼拝堂に向かう者は階段を登らず、真っ直ぐ道なりに歩いて行く。ユーリッドは温泉を目的として訪れたのではないので、礼拝堂へ向かう流れに従う。
周囲を覆う緊張感は、人々の祈りの言葉によるもの。
礼拝堂は精霊を身近に感じることができる神聖な場所とされ、一説によれば精霊と直接対面できるのがこの場所といわれている。
礼拝堂は繊細で緻密な彫刻が幾重にも施された、ゴシック様式の建物といっていい。
高い天井に設置された採光窓から差し込む光が、磨き上げられた大理石の床に降り注ぐ。
床は先程の小川のように煌びやかに輝き、無数の細かい宝石を散りばめたかのような錯覚を覚える。
ユーリッドが脚を踏み出す度に、カツンという乾いた足音が建物の中に響き渡る。
しかし、誰一人としてその乾いた音に気を止めるものはいない。礼拝堂の中にいる人の数は、思った以上に多い。
これも精霊への信仰の篤さか、祈りを捧げる人々の表情は真剣そのものだ。
その時、人々の祈りの言葉が止まった。急の出来事に不思議に思い首を傾げるユーリッドであったが、見事な刺繍が施された重厚な服を纏う人物の登場に、どうして祈りの言葉が止まったのか理由を知る。
今日は祭りということもあって、身分の高い聖職者の話が開催されるらしい。
そのことを知っているのか、祈りを捧げていた者達は空いている席に腰掛けていく。


