「嬉しいよ」
エリックは、最高の笑顔を作る。また「最上級の親友を見付けた」と言っているかのような雰囲気に、ユーリッドは心の中で叫ぶ。
またこれ以上付き合いたくないというのが心情らしく、顔が引き攣りだす。
ユーリッドは再び足早に立ち去ろうとするが、後方で不可思議なオーラを放っているエリックの存在が引っ掛かる。
ユーリッドは懸命に「幻」と自分に言い聞かせるが、音程が外れた歌声が耳に届く。
その時、数人の大柄な男がエリックの周囲を取り囲んだ。
どうやら彼の歌声は騒音に分類されてしまったのだろう、男達はエリックの両腕と両脚を掴むと何処かへ連行されてしまうが、引き摺られている最中でも歌い続けているのはプロ根性の表れというもの。
その行為自体は拍手に値するものだが、同時に惨めな一面を曝け出し周囲は爆笑の渦に包まれていた。
ユーリッドエリックの様子が気になったのか、彼の姿を視線で追う。刹那、彼の歌声が途切れた。
どうやら何処かの建物の中へ入ってしまったのだろう、あの調子だと取調べの最中でも歌っている可能性が高い。
密閉した空間に響く音程の外れた歌声など、地獄そのものといっていい。
しかし余計な想像は身の破滅を招き、同時に自身の精神力が消耗していってしまう。
それにエリックを見ると激しい脱力感に襲われるのは、身体が拒絶反応を示している証拠だった。
それに長く一箇所に留まっていると何かの弾みで逃げ出してきたエリックに出会ってしまうので、ユーリッドは彼から逃げるようにしてその場から離れ、行き交う人々の流れに乗り同じ方向を目指した。
彼が目指す場所は、小高い丘の上にひっそりと建つ古めかしい修道院。
其処は、多くの願いが集まる場所。それ故に、この街は〈祈りの地(ベルクレリア)〉と呼ばれている。
しかし、本来の意味を知るものは少ない。
その意味は、精霊信仰を行う人々には関係のないことだから。
◇◆◇◆◇◆
誰もが修道院へ続く道を歩き続ける。その者達の歩き方は十人十色で、精霊に祈る願いが異なるように態度と行動も全て異なる。
しかしひとつだけ共通しているモノがあり、それは精霊への祈りの言葉。
どれほど年月を重ねようとも、この言葉だけは失われることはない。人間はそれを願いと言葉と共に紡ぐが、精霊からの言葉ははい。
だが、それでも祈りを止めることはしない。中にはその行為自体を「無意味」と感じる者もいるだろう、それでも信仰が途切れることはない。


