窓を開くと同時に、涼しい風が部屋の中に吹き込んでくる。
薄く染色したカーテンを揺らし、窓を開けた人物の頬を優しく撫でる。
彼女の目の前に広がる風景は澄み切った青空で、雲ひとつない青い色彩は美しい。
「良かった、今日は晴れて……」
エリザは眩しく光り輝く太陽を見上げると、囁くような声音で呟く。
何日も雨が降り続いていたことによりエリザは気分が滅入り、尚且つ大量に溜まっていた洗濯物を心配していた。
しかし今日は快晴で、絶好の洗濯日和といっていい。
エリザはテーブルの上に置かれていたベールを被ると私室から出ると、今日も多くの仕事をこなそうと自分自身に気合を入れた。
「おはようございます」
ふと、若い女性の声音が耳に届く。
その声音が聞こえた方向にエリザは視線を向けると、彼女の目の前には自分と同年代の修道女が立ち尽くしている。
彼女は緊張しているのか、挨拶の言葉に何処か硬さが感じられる。
そんな緊張感が隠しきれない修道女に微笑を返すと、彼女から用件を聞く。
「聖女様の知り合いという方が、外に……」
彼女はそれ以上、彼女は言葉を続けようとはしない。
不可思議なものを目撃してしまったのか、顔が悪い。
しかし「知り合い」という単語に心当たりがないエリザは首を傾げ、思い当たる人物を記憶の中から探る。
すると、一人だけ思い出した。
修道女の顔色を悪くさせる人物など、この世に一人しかいない。
まだ被害が出ていないが、彼が出現したとなると被害がでるのは時間の問題といっていい。
「わかりました。その人に会いましょう」
エリザの言葉に、相手は胸を撫で下ろす。
どうやら余程の体験をしたのか、彼女にとってエリザの返事は救いそのもの。
それは仕方がないことであり、彼にはじめて会った者なら皆同じ反応を見せる。
それだけ衝撃的な人物で、あの創造主さえ彼を嫌っているのだから恐ろしい。
「聖女様――」
あの時から、そう呼ばれるようになった名前。
エリザは最初、戸惑いを見せていたが最近はそのように感じることはない。
慣れた――それは驕りに等しいことであるが、受け入れたという意味の方が似合う。
だが、いまだに慣れないことがひとつだけある。
それは同年代から敬語の使用と恭しい態度。
こそばゆくて全身がムズムズと痒く「敬語を使わなくていい」と言ったこともあるが、やはり立場上それは許されない。
そう、エリザの後ろにはあの方の影が見え隠れするからだ。