「どうか、過去のことを――」
エリザの指摘にドロイロの身体がピクっと震えるが、否定の言葉を発することはなかった。
本人を目の前にし、それでも偽りで染め続けることなど不可能であると気付いたからだ。
それに精霊の力を、身を持って体験した。
もし止めるのが少しでも遅かったら、確実に一人の命が失われていただろう。
いや、それ以上の犠牲者が生まれている。現に精霊の力は、あのようなものではない。
「あの精霊は?」
「レスタ様」
告げられる名前をわかっていたのか、意外にも冷静に受け止めていた。
吹雪を起こし季節を一変させる精霊など、数は限られている。
ましてやエリザはその名を叫んだので、確信はあった。
「――リゼル様」
震える声音で創造主の名を呼ぶと、ドロイロは大声で笑い出す。
そうと思ったら、次は泣き出す。
突然の行動に、エリザは声を掛けられないでいた。
それは彼女だけではなく、他の者もそうであった。
「知っておられた。はじめから、何も……それだというのに、あの方は……ああ、我々は……」
その時、礼拝堂の扉が開かれた。
それに続くように礼拝堂に立ち入るのは、見覚えのある服装の一団。
異端審問官――どうやら生き残りの人間の捜索をしていたらしく、ドロイロやその他の聖職者の姿に気付くと慌てて審問官達が此方に向かって駆け寄ると、全員の無事を確認した。
「こ、この娘は!」
審問官の一人が、エリザの腕を掴もうとする。
しかし、ドロイロの言葉にそれを制された。
いつもとは違う雰囲気に、何があったのか訊ねる。
だが、先程の件を話すことはしなかった。
「これから、この者に従う」
ドロイロが下した判断に異端審問官は勿論、他の聖職者も驚きの表情を作る。
しかし、彼の決断は固い。先程のやり取りと行動を見ていれば、その考えの意図をおのずと理解できる。
創造主が認めた人間はエリザという修道女であるので、彼女が導いて行くのが正し選択だ。
「わ、私は――」
唐突の提案に、エリザは動揺を隠しきれないでいた。
確かに彼女はこのことを後世まで残すことを約束したが、人々を導く役割まで約束はしていない。
それに多くの者達の先頭に立ち導く器を持っていないとエリザは自覚しているので、簡単に受け入れられるものではない。


