最後の最後まで、自分より年下の相手にからかわれ甚振られている。完全に打ちのめされ気力を失った吟遊詩人は、相手に返す言葉が見付からない。
それどころか、ショックで放心状態だった。
「だ、大丈夫ですか?」
次に吟遊詩人に声を掛けてきたのは、馬車の中で唯一演奏と歌を褒めてくれた人物。
相手の顔を見た途端、表情に明るさが戻り身体からは「救いを得た」という雰囲気を漂わせつつ、相手の手を握る。
しかし同性から強く手を握られるのは気分が悪いらしく、少年は無理矢理手を振り払うと両手を後方へ隠す。
その冷たい態度に吟遊詩人の表情が再び曇っていくが、少年は手を振り解いたことに清々している。
そして、嫌悪感を含む口調で吟遊詩人に言葉を投げ掛けていた。
「よくぞ、聞いてくれた。最近の子供は、何を考えているのか……教育は、幼い時期に厳しく行うものだ」
「それは、今のやり取りを見ていればわかります。でも、僕もその“最近の子供”に含まれると思いますが」
「君は、特別だ。私の演奏を、あのように褒めてくれたのだから。その中に、悪い奴はいない」
これは完全に、自己中心的な発言に近い。先程の自己陶酔に近い行動といい、不可思議な人物と少年は結論付ける。
吟遊詩人は皆このような人間が多いのかと考えてしまうが、少年が旅先で出会った人物の中に吟遊詩人のような常識外れの性格を持っている人間は一人もいない。
結果として、彼という存在が特別といっていい。
声を掛けてはいけない厄介な相手に声を掛けてしまい尚且つ関係を築いてしまったと少年は激しく後悔するが、全ては後の祭りだった。
「僕と先程の少年、大して年齢は変わらないと思いますが」
「むむ! 年齢は?」
「今年で、15になります」
少年の言葉に、吟遊詩人は自分を苛めていた人物が消えた方向を一瞥する。そして再び目の前に立つ人物に視線を合わすと、何を思ったのか手を叩く。
すると何か結論が出たのだろう、真面目な表情を浮かべている。
「外見と中身は一致しないものだよ」
「は、はあ」
無論、理解し難い発現であり、同時に少年は悟る。
この人物は、職業の選択を誤ったと。
どのような人物も適切な職業というものがあるらしいが、彼の場合一番選んではいけない職業を選択してしまった。
お陰で多くの被害者を生み出す結果となってしまったが、彼は全く気付いていない。


