風の放浪者


「エリザ。約束通り、後は頼む」

「は、はい!」

 この瞬間、精霊は人間に攻撃を仕掛けるのを止め、終焉が訪れる。

 だが、彼等は納得していない者も多い。

 その中の一人ドロイロは大声でユーリッドを呼び止めると、こうなってしまった責任を取らせようとする。

 エリザは間髪をいれずに反論するも、寸前でユーリッドに制される。

「そうだ、処刑してやる」

 ドロイロが発した言葉に、周囲にいた者達は次々と同じ言葉を連呼する。

 まさに集団統一というべきか、何かにとりつかれたかのような怪しい光景にエリザは溜息を付き、同時に聖職者の威厳は地に落ちた。

 彼等の浅ましいユーリッドは一面に肩を竦めると、レスタに視線で合図を送る。

 それを受け取ったレスタは素早くエリザの前に立つと、彼女を守る盾となる。

 突然の行動に何が起こるのかわからないエリザであったが、嫌な予感はしていた。

 何故なら、レスタが進んで人間を護ることはしない。

「驕るな、人間よ。汝、聖職者という地位つく者なら現実を見るがいい。お前達の目は、曇っているのか」

「精霊使いが、ごちゃごちゃと煩い」

 先程まで感じていた恐怖は、何処へ行ってしまったというのか。

 レスタが力を振るうことを止めた瞬間、ドロイロは強気に出る。

 精霊へ逆らうことはできないが、人間は相手にできるということだろう。

 だが愚かなことは変わりなく、ユーリッドはリゼルとしての一面を外に出していた。

「……わからぬというのか」

 正直、彼にも限界はあった。

 創造主として常に見守る立場に立ち物事を公平に図ろうとも、引かれた線から外れた行為を行った者達を許すわけにはいかない。

 この世界は特定の種族の物ではないので、人間が好き勝手に振舞っていいものではない。

 時として感情を表に表すことも珍しくはないが、同時にそれはひとつの個を破壊する恐れも持ち合わせている。

「ならば、知れ!」

 その言葉が力となり、礼拝堂を震わす。

 壁は耳障りな音をたて細かい破片を振り落とし、床は蜘蛛の巣のようにひび割れる。

 そしてステンドグラスは砕け散り、ドロイロ達の頭上に降り注ぐ。

 衝撃波に似た力にエリザは悲鳴を上げ頭を守ろうとするも、自分の周囲は無傷だった。

 レスタが、エリザを護ってくれた。だが、ハッと息を呑んでしまう。

 震えていた。

 あのレスタが恐怖を感じていたのだ。

 たとえレスタのような最高位の精霊であれども、彼の気持ちひとつで消滅してしまう。ましてや、感情の爆発による力の使用。油断すれば、消滅は免れない。