カツン。
祈りを遮るように、乾いた足音が近付いてくる。
規則正しく決して乱れることのないその足音に、祈りの言葉が止まった。
誰かが来た――それはわかるも、誰も振り返ることはしない。
「祈りを捧げたところで、助けなどない」
感情のない言葉に、全ての者達の身体が別の意味で震えだす。
振り返らずとも肌で感じたのだろう、レスタの発するオーラに。
彼の言葉は身体の中心部まで冷やし、骨が痛み出す。
「死ね……そして、滅べ」
其処に、躊躇いという言葉は存在していない。
彼にとって、人間は排除すべき存在。
我慢に我慢を重ねた末に、限界を越えてしまった。よって人間が発する悲鳴は、実に心地がいい。
その時、レスタの予想に反した行動を相手が行った。
何と無謀にも、精霊に襲い掛かってきたのである。
自暴自棄になったのか、それとも――どちらにせよ、レスタに敵うはずがない。
相手の攻撃を簡単にかわすと、レスタは仕掛けてきた者の喉元を握り締める。
想像を絶する握力に骨が軋み悲鳴を上げ、男の命を削っていく。
そして、骨を折ろうとした瞬間――
「何をしている。その者を放せ」
レスタを制したのはリゼルとして現れたユーリッドであり、レスタは渋々ながらその声音に従う。
ドスンという重い音が響き、レスタに攻撃を仕掛けた者が床に叩きつけられた。
開放と同時に男は空気を求め喘ぐが、レスタと目が合った瞬間、仲間のもとへ飛んで逃げた。
「……もう、良い」
「しかし――」
反論と同時に振り返った瞬間、レスタは言葉を詰まらしてしまう。
ユーリッドが哀れみを湛えた視線を、此方に向けてしたからだ。
それは、人間に向けられたものではなくレスタ自身に。
それを無意識に感じ取ったレスタは何も言えず、俯き消えそうな声音で詫びるしかできない。
「……申し訳、ありません」
「戻るぞ」
「御意」
素直にレスタが従ってくれたことに、ユーリッドの側にいたエリザはホッと胸を撫で下ろしていた。
レスタが力を振るうことを止めたことにより徐々に気温が戻っていくが、寒いことには変わらない。
それでも先程より過ごし易く、これで凍死者がでないで済むだろう。


