だが、相手の力が勝り逃れることはできない。
男は空気を求め懸命に喘ぐも、彼の気管は入ってくるのは温かい空気ではなく、全身を凍てつかせるような冷たい空気そのものであった。
それを吸い込んでしまった男の表情が一変、見る見る強張っていき血色を悪くしていく。
刹那「ピシ」という音が鳴り、何かが凍り付く。
見れば男の身体が青白く染まり、壁に張り付いていた。
ふと、一陣の風が吹き抜ける。
次の瞬間、暖炉の炎が凍り付きパリパリという音をたて、下から上へ向かい赤い色彩が青へ変わっていく。
また、吐き出す息が白く染まり身体が震えだす。
神官達は歯を震わせながらことの状況を把握しようとするも、寒さによって思考が徐々に停止していく。
『……目障りだ』
その時、聞き覚えのない声音が響く。
聖職者達は、反射的に声がした方向に視線を向ける――それと同時だった。
一人の人間の身体が、凍りついたのは。
その者は自身の身に何が起こったのかわからないという表情を浮かべながら、氷の中に完全に閉じ込められている。
「……程々にしておけ」
椅子から腰を上げながら、ユーリッドは見えない相手に命令を下す。
そして切れた唇を染める赤い液体を拭うと、指先についた血を眺める。
己の血――千年ぶりに見たそれは、妙に懐かしものでもあった。
「それは、なりません」
強い口調で命令を拒絶するとレスタは陽炎のように揺らめく空間から姿を現し、冷徹な瞳で聖職者に視線を送る。
突如姿を現したレスタに、彼等は言葉を失う。
精霊の登場など、予想していなかった。
「この者達は、主を二度も傷付けた……絶対に、許すことなどできません。無知もここまでくると、愚かです」
レスタのリゼルへの忠誠心は、他者が驚くほど高い。
永遠なる忠誠。
そして、不必要な存在はこの世から抹殺する。
たとえそれが同族であろうと彼は迷わず力を振るい、主人の存在を護る。
結果、不浄な存在である人間には何ら感情など湧かない。
湧かない生き物に対して、慈悲など与えることもない。
だからこそ、魂まで凍てつかせる非情さを持つことができるのだ。
「汝らの罪、その血で購え……」
言葉と共にドロイロの横にいた男の身体がレスタの手によって貫かれるが、貫かれた箇所からは血は流れない。
それどころかその箇所から凍り付いていき、全身に広がっていく。
我が身に起こった出来事に男は悲鳴を上げるも、這うように伝わる氷によってその声がかき消された。


