一陣の風が、少年の髪を揺らす。深い青空と同じ色をしている髪はサラサラと音を奏でながら靡き、煌びやかに輝く。

 それを押えつつ少年は、質問をしてくる相手に向かい言葉を続けた。

「祈りを欠かさずに行っていれば、君も見えるんじゃないかな。精霊は、純粋な心を持つ者を好むと聞く」

「うーん、わかった! 有難う」

「どういたしまして」

 吟遊詩人に批判的な意見を言っていた少年は、彼を相手にするより此方の青い髪の少年の方に興味を抱いたのか、日頃感じている疑問をぶつけていく。

 そして少年の丁寧な回答と優しい心遣いに気分がいいのか、機嫌がいい。

 しかし馬車は目的地に到着し荷物の下ろしも行なわれているので、乗客も早く馬車から降りないと迷惑になってしまう。

 そのことを伝える母親の声に頬を膨らませると「もう少しいたい」と駄々を捏ね、母親の言うことを聞こうとはしない。

 それどころか、我儘を言い出す。

「駄目よ。降りなさい」

「嫌だ!」

「もう、聞き分けのない子ね」

「親の言うことは、聞いた方がいい。君はいい子だし」

 母親の言葉に反論していた少年が、彼の言葉に対して首を縦に振る。

 急に物分りのいい子供に変化した我が子に母親は唖然となり、信じられないという雰囲気を全身から醸し出す。

 だが、これで馬車から降りてくれると安堵し、母親は青い髪の少年に何度も礼を言ってきた。

「有難うございます。助かりました」

「いえ、根はいい子だと思います」

「そうだと、いいんですけど」

「反抗期ですかね」

「多分、そうかもしれません……ああ、静かに降りなさい。他の人達に、迷惑になってしまうでしょう」

 しかし少年は、母親の言葉は全く受け入れない。少年は馬車から飛び降りると同時に背を伸ばすと、その場で軽い運動をはじめる。

 いくら綺麗に舗装されている街道とはいえ馬車から伝わる振動は防ぎようがなく、乗客の中には腰を痛めてしまう者や酔ってしまう者も多いが少年は無事だった。

 しかし今回の乗客は皆それらに慣れているのだろう、誰一人として体調不良を訴える者はいない。

 いや、一人だけ苦痛に呻く者がいた。

 その人物というのは、御者に唄うことを中断させられていた吟遊詩人。彼はふらつく身体と戦いつつ馬車から降りると、思わず愚痴を漏らす。