あれから一体、どれくらい時間が経過したのか。

 そう感じ取ったのはユーリッドではなく、異端審問官。

 今日はやけに時間が長く感じられ、それに多くの者達が胸騒ぎを覚えていた。

 だが、誰一人として自分達の行いを間違いとは認めない。

 異端者を捕まえるのが使命であり、正しい行為と自負している。

 それが精霊達への忠誠心に繋がり、この世界を発展させる。

 だからこそ、不必要な存在はいらない。

 その考えが、彼等を突き動かす。

 そして、高笑いが響き渡った――


◇◆◇◆◇◆


 狂ったような笑い声を聞いているユーリッドは、不適な笑みを浮かべた。

 彼が現在いる場所は修道院のとある一室で、罪人を閉じ込めておく牢屋。

 神聖な場所に薄汚い牢屋とは――その不似合いな存在にユーリッドは肩を竦めると、吹き付ける冷たい風を全身に浴びた。

 彼が閉じ込められている牢屋は、どちらかといえば地下牢に近い。

 外気と光を取り入れるだけの採光窓が唯一の外部との繋がりであるが、それなりに高さがあるので逃げ出すのは不可能だ。

「落ち着いているね」

「そうでもないですよ」

 石を組み敷き造られた壁に寄りかかり、何度も溜息を付いているエリックが声を掛けてきた。

 どうやら頭を殴られ連れて来られたことにショックだったらしく、泣いてはいなかったが項垂れている。

「歌っていい?」

「怒りますよ」

「冗談だよ。少しは、周囲を明るくしようと思ってね。ほら、この場所は静かで寂しいだろう」

「僕がいない場所なら、好きなだけ歌ってください。聖職者相手なら、別に構わないですから」

「ほ、本当か」

 彼の言葉に落ち込んでいた気分が明るくなったのかエリックは立ち上がると、ここぞとばかりに歌おうとする。

 だが狭い空間でのエリックの歌は更に殺傷力を増すので、ユーリッドからの鋭い突っ込みが入る。

 何より「ユーリッドがいない場所」という部分を聞いていない。