風の放浪者


「それは、凄いわね」

「今度、服を作ってあげましょう」

「お断りするわ」

 情け容赦のない言葉に、再び倒れこんでしまう。

 肉体と精神に対するダブル攻撃に、流石のエリックもグロッキー状態。

 人を気絶や失神させる歌を歌う人物であっても、内面は脆いようだ。

 その時、彼等は奇怪な光景を目撃してしまう。

 それは、エリックが大粒の涙を流して泣いていたのだ。

 この世のものとは思えない姿にユーリッドとエリザは思わず引いてしまい、フリムカーシも同種の感覚を抱いたのか「エリックを置いていきたい」ということを提案した。

「そうしたいのは山々だけと……彼は一応、学者のようだし。捕まったら、後々が面倒だよ」

「学者という肩書きも、怪しく思えます。このように馬鹿で阿呆で、常識を持ち合わせていません」

「……それを言わない」

 流石にこのような人物が学者という職業に就いているは、常識的に考えて有り得ない。

 彼が言う自称吟遊詩人――もしかしてこちらが本職ではないかと思うユーリッドであったが、彼が歌う殺傷能力が高い歌は危険すぎる。

 どちらにせよ中途半端で、褒められる点は少ない。

「街へ行く。どちらにせよ、このまま此処にいるわけにはいかない。一箇所に止まるのは、危険だ」

「御意。もし、何かがございましたら……」

「いや、今はいい。お前達が見境なく力を使用したら、後始末に時間が掛かって仕方がない」

 ユーリッドに危険が及んだ場合、暴れるのはフリムカーシだけではなくレスタも含まれる。秋と冬の暴走――想像しただけで恐ろしく、自然のバランスは間違いなく崩れ生き物は死滅してしまう。

 それに人間の影響で、他の多くの生き物に迷惑を掛けるわけにはいかない。

 厄介な人間のみを消滅させることができれば一番だが、力の大きさを考えると一部分で済むわけがない。

「エリザ、君も一緒に」

「……わかっています。お心のままに」

 修道女らしく振舞うエリザに、フリムカーシの口許が緩む。

 それは真実を知って心変わりしたことを喜んでいるのではなく、移り変わりの激しい人間の気質を笑ったのだ。

 本当の真価が問われるのは、これからというもの。

 もし自分達を裏切る素振りを一瞬でも見せたら、その命を貰う。