流石にそのように言われたら、演奏を止めるしかない。吟遊詩人は御者の言葉を素直に受け入れると徐に天を仰ぎ、理解してもらえない己の才能を嘆き悲しむ。
その姿に周囲の者達は凝視し、心の中で「可哀想」と、呟く。
そして微妙な沈黙が続く中、馬車は目的地に向かうのだった。
◇◆◇◆◇◆
馬車の目的地に到着した途端、老若男女の賑やかな会話が乗車の耳に飛び込んできた。
先程の牧歌的な雰囲気とは一変、華やかな風景が印象的なこの街はすっかり秋祭りの装いで溢れている。
祭りの当日は、大地より齎される数多くの実りに感謝し永遠の豊穣を願う歌を唄う。
また舞を得意としている者は動作で感謝を表現し、全てを与えてくれる精霊に自分達の気持ちを伝える。
それが、秋という時期の慣わし。
秋を司る精霊よ、汝の慈悲に感謝します。
来年も再び、多くの豊穣を与えたまえ。
この世は、精霊の加護によって成り立っているといっても過言ではない。
その為、精霊に対しての思い入れは深く〈精霊信仰〉が各地に広まっているのもその理由のひとつといっていい。
精霊の存在なくして、この世界のあらゆる物は成り立たない。
精霊という存在は人間の目に見え触れることができない不可思議な存在と言われているが、精霊の加護が存在しているということは間接的に人間は理解している。
しているからこそ祭りというかたちで自らの信仰心の高さを表現し、精霊の加護が未来永劫いつまでも続くように願い続けるのだった。
「そうなのかな?」
「僕はそのように思うよ」
「えへへへ、お兄ちゃんにそう言われるとそうかもしれない。だって、凄く説得力があるんだもん」
「そうかな? 殆んどが、誰もが知っている内容だと思うけど。でも、そう言われると嬉しいよ」
「あの吟遊詩人と違うね」
「それを言っては、可哀想だよ」
爽やかな笑顔を浮かべつつ話を進めているのは、音痴の吟遊詩人を褒めた少年だった。
彼の藍色の瞳はあれこれと質問をしてくる人物に優しく向けられ、その口調は語り部のようだ。
その姿を間近で見ていた乗客全員の意見が同調する、この少年の方が吟遊詩人に向いていると――


